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ソ連崩壊は冷戦による財政難といわれる、圧倒的な財源にものをいわせて冷戦に勝利したかのようにみえる米国いまその高い代償に苦しむことになった。全面核戦争に一方的な勝利はないことが抑止力として働いたが、核兵器の所有はその国の国民の健康被害を引き起こすことがようやく認識され始めている。
セントルイスの悲劇
セントルイスはミシシッピ川とミズーリ川が合流する地点にある人口35万の都市で黒人住民が多い。平和なこの街の住民が放射性廃棄物の影響で癌発生率に代表される放射線被曝による健康被害を受けている。廃棄物置き場が住宅地に隣接しているからだ。放射線レベルの高さに当局は公園を立ち入り禁止にした。健康被害を訴えている住民は2,700人にのぼる。
陸軍の工作部隊が低レベル放射性廃棄物の除去作業を行っているものの、長年の放置により土壌汚染が深くまで及ぶため除染作業は順調にいかない。住民の健康被害は癌、脳障害、甲状腺癌などである。
国家安全保障の名の下に
Coldwater Creekの2箇所の廃棄物置き場が放射性廃棄物の汚染源となっている。これらの汚染物質は数万本のドラム缶に収納されたのみで放置されてきたが、漏れ出した廃棄物が土壌を汚染している。この違法行為は国家安全保障のもと秘密裏に行われてきたが、いま住民の健康被害を引き起こしている。
WHOによれば劣化ウランは長い間の被曝で肺癌と肝臓癌を引き起こすことが核関連労働者の記録で明らかになっているという。食物摂取や呼吸で放射性粒子を吸い込むことにより体内被曝が起こり、癌発生につながることは明白である。
放射性廃棄物はセントルイス郊外(West Lake)にあったマンハッタン計画のウラン製造の化学工場が原因であるが、問題はそれだけではない。Coldwater Creekなど住民の住む区画に近い土地に廃棄物を放棄したことにある。廃棄したのは民間の受託企業だが、倒産するたびに原子力規制委員会が後を引き継ぐ新会社に放射性廃棄物を扱う許可を与え続けてきた。
不正に廃棄物を投棄することを防止するべき国が、安全保障の名を借りて秘密裏に違法行為をしてきたことが問題にされている。原子力規制については最も厳しい国のひとつであるとされる米国の不始末は原子力の二面性、すなわち平和利用と核兵器を如実にあらわしている。ここまで汚染が進むと除染は困難だから、住民は避難を余儀なくされるだろう。少なくとも国はそうした住民を保護し支援する義務がある。