富の格差は止まらないが、このことが世界中に歪みを起こしていることが明らかになると、憂慮する知識人の中には根本的な解決を模索する人たちが現れた。「21世紀の資本論」の著者トマピケテイに代表される動きである。しかし格差の進行は課税という処方箋で解決されるとは思えない。むしろ現在でも立派に存在する課税を逃げる手段を高度化させ、富の格差は一層進むかも知れない。
アップル、スターバックスなど高利益を上げている法人は法人税率などの低い国に所得を移転して納税額を減らしている。所得隠しはスイスプライベートバンクやケイマン諸島の隠し口座がある。マネーロンダリングは世界中でありふれた日常茶飯事となっている。こうした資本主義に巣食う病巣はイデオロギーでは駆逐されない。事実、社会主義になっても幹部が私欲を貪る構図は変えることができない。根本的な人間の欲望、7つの大罪のひとつである”Greed”はグローバリゼーションで一層加速した。
富の格差は都市と郊外や都市の中の格差につながる。国内では東京への一極集中が懸念される中、2020年オリンピックに向けて東京都は東京臨界地域を「東京ベイエリア21」と呼ばれる臨界副都心として開発整備することとなった。すでに台場、青海、有明南、有明北の4地区が開発整備中で、「お台場」はショッピングモールや高層マンションが立ち並び、若い世代に人気が高い。世界都市博覧会を中止して臨んだ臨海副都心開発見直しでいったんは陰がさしたが、開発は継続され2000年頃から賑わいを見せるようになった。2020年のオリンピック向けに開発整備は加速される見込みである。
La Defensの夜景
世界に目を向けると副都心計画はどうなのであろうか。臨海副都心に良く似た景観をみせるのが2020年に向けて開発が進められているパリの副都心ラデファンス(La Defens)である。
パリは旧市街を徹底して保存するため、高層ビルは極度に規制され副都心は中心からはずれた西に位置する合計800haに、900社、100,000人が30以上の高層ビルで働いている。隣接する宅地も広いが地下鉄を含む公共交通機関が充実しているため、1時間以内の通勤が普通である。
Cannery Wharf
ロンドンの新副都心カナリーワーフ(Cannery Wharf)はテムズ川沿いにやはり中心を避けたように旧市街を避けて立つ。ここには高層ビルが建ち並ぶ金融センターとしてシテイに並んでロンドンの金融ビジネス中心となった。テムズ川が回り込むシケインのようなこの地区はCannery Wharf / Isle of Dogsと呼ばれ、グリニッチなど旧市街と特別区からなる。
多国籍企業オフイスが占める高層ビル群はかつてのロンドンには見られなかったが、1980年から寂れつつあった貨物港の再開発事業が進められ、いまでは古風な民家に囲まれた異次元空間ともいえる近代的スポットとなった。テムズ川沿いはしかし昔の面影を残す新旧コントラストが甚だしい。
中東高層ビルラッシュは石油マネーが不動産に流れ込んだバブルによるものでドバイの高層ビル群は「現代のバベルの塔」の様相を呈している。モスクワはパリのように中心は旧市街であったが、モスクワシテイと呼ばれる副都心計画が1992年から開発整備が進められている。
Tower of Babel
モスクワ川河畔の1平方kmという広大な面積を20区に分け、市庁舎、ビジネスビル、 ターミナル、美術館などを高層ビルに収めたモスクワシテイは古いモスクワを一気に近代化する国家事業である。モスクワシテイの目玉として計画荒れていた118階建てで高さ612.2mのロシアタワーはドバイのブルジュハリファに次ぎ2番目に高いビルとなるはずであったが、金融危機で中止に追い込まれた。今回の原油価格下落の影響で下落したルーブルの影響が懸念されるもののすでに建設された15以上の高層ビル群は金融、ビジネスの新中心として存在感を示している。
世界の副都心計画をみると都市の中心に高層ビルが建てられ金融ビジネス中心となっているアメリカ型都市と好対照の旧市街を保存しつつ、離れた場所に高層ビルを集中させる旧市街保全型副都心である。東京ベイエリア21でもこのような新旧がお互いを尊重し隣あわせで活力が生まれることを実践して欲しい。どうやら副都心は新旧が隣り合うという点で共通するようだが、格差が旺盛な欲望(Greed)の結果とみるならば、ミスマッチが活力になっているということなのかも知れない。
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