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冷戦の象徴であったベルリンの東西ドイツの壁が1991年のソ連崩壊で崩れ去って以来、国境にそびえる壁のイメージは薄れた。しかし一方では麻薬密輸や不法入国を食い止めるために、国境の壁が増強されている地域もある。
アメリカ−メキシコ、インド−パキスタン、北朝鮮−韓国など紛争の危険をはらんだ国境の壁は有名である。これらを含む国境の壁は世界で14箇所あるという。そこに最近サウジアラビアがイランとの国境に新たにハイテク装備の「壁」をつくることが明らかになった。
サウジアラビアのメッカとメデイナをISが奪還を企てていることへの対応とされている。ヨルダン国境に近い北部のTuraiから東部のクエート国境に近いHafal al-Batinまで続く、全長600マイルのハイテク壁は「サウジアラビアの万里の長城」と揶揄される。
ハイテク壁は監視塔、砂嚢、レーダー、TVカメラ、監視ネットワークを装備した5重構造でできている。2006年のイラク内戦で計画された「万里の長城」は2015年9月から稼働する。その背景にはイラク国内で勢力を強めるISの脅威から、宗教都市を守るという名目がある。イラクからのISの浸透と(区別が困難な)大量の難民の流入を食い止めるためではないか。
リャドはすでにこの地域に30,000人の軍隊を送り込んだ。砂漠の「万里の長城」区域が緊張に包まれている。しかしサウジアラビアの国境壁はこれだけではない。内戦の続くイエメンとの国境沿にも1,000マイルにわたって壁がつくられた。イエメン国境を守るサウジアラビア警備隊3名が4名の攻撃で死亡している。
ハイテク「万里の長城」の建設費は不明だが、砂漠の過酷な環境でハイテク機器が正常に動作するには、設置だけではなく安定な電力供給、温度管理、機材の保守が重要となる。警備雇用費、保守費を含めると膨大な出費となるが、一方ではこれらの機材を販売する軍需産業にとってはこの上ない好機である。
しかし歴史的には難攻不落の壁は存在しない。フランスの「マジノライン」も東西の壁も、そして本家の万里の長城もやがて遺物となった。