イランが海賊対策を理由に海軍をアデン湾に派遣したことで、ここにアメリカを含む敵対する諸国の艦船が集結することになった。中東戦争につながる一触即発の事態が懸念されている。
世界の原油海上輸送の35%はホルムズ海峡を通る。日本へ運ばれる原油の80%はホルムズ海峡の安全保障に左右されてきた。ホルムズ海峡の巾は狭く、片側3kmずつの通行レーンに毎日1700万バレルの原油を積んだタンカーが行き交う。
イラン海軍のSayyari司令官によればアデン湾への海軍艦船の展開は2008年からのものでイエメン空襲と関係ないとしている。またアメリカ海軍も艦船は国際水域のみで活動しているとしている。
しかし1995年にアメリカ海軍のフリゲート艦「ヴインセント」がイラン航空のエアバスA300機(655便)を撃墜し290名の犠牲者を出した。この時にもイラン海軍の艦艇がアメリカ海軍の艦船と交戦状態にある中で、民間機が軍用機と間違われたために悲惨な撃墜となった。このときはイラン国内の空港が軍用に共有であったため、待機中F-14戦闘機と誤認したことによる。
狭い海域で敵国同士の艦船が接近すればささいな行動が相手を刺激して簡単に交戦状態となる。アメリカの空母のアデン湾への派遣はイランへの武器輸出を阻止するためとされている。それが事実ならキューバ危機と同様に臨検が行なわれ双方の武力衝突が懸念される。
イラン海軍がアメリカの輸送船を停船させ強制的に臨検のため入港させたことを受けて、アメリカ海軍のフリゲート艦を輸送船の護衛にあたらせるとの報道があった。アメリカ海軍は「ミサイルフリゲート艦を緊急事態に対処させる用意がある」という声明で、何が「緊急事態」なのか明らかにしていない。
国際海域を離れてイラン領土内に船舶が入った場合にどのような事態が予想されるか見当もつかないが、「ヴインセント」のような事態が起きる可能性が高い。
もし有事になればホルムズ海峡をイランが封鎖することは必至だ。その場合、世界に向けて35%の原油輸送がストップし日本へは原油が届かなくなる。チョークポイントのリスクが高まるが、逆に考えると封鎖によって原油価格が一気に跳ね上がるが、それで利益を得る複数の国々が存在することも頭におかねばならない。
シェールオイル増産でアメリカは中東原油に依存しなくなったが、いまだに日本の原油のほとんどがホルムズ海峡に運命をゆだねている。また原発の穴埋めで電力供給量の88%を火力に依存している異常事態にあっては、なおさらである。電力会社がエネルギー安全保障が原発依存を高めたことの一端はこのためだ。
ミサイルフリゲートのシルエットは美しくもあるが、ひとたび戦闘ともなれば強力な破壊力を持つ。張りつめた艦内の兵士たちは追い込まれた精神状態にあり、映画「ベッドフォード作戦」で描かれたように好戦的な兵士が暴発する危険性をはらんでいる。