Photo: START-UP ISRAEL
デンマーク政府は9月の総選挙前の経済成長政策の一環として、現金廃止に向けた法整備の素案「現金決済の義務」の一部の廃止を発表。早ければ2016年 1月には世界で最も電子決算化が進んだ国となる。
デンマークの人口の3分の1はすでに、同国最大の銀行Danske Bank のスマートフォンアプリのモバイルペイ(MobilePay)を使って電子マネー決済を行っている。今回の法案はレストラン、衣類小売店、ガソリンスタンドなどの指定業種において、現金支払いを断ることができるようになる。つまり、現金を持っていても、商品やサービスが「買えない」ことになる。
デンマーク財務省は、現金を扱う上でのコストの負担を無くすことで、経済の活性化につながると法案を推進している。支払い時間の短縮による店舗の効率化、消費者にとっての利便性、経済犯罪抑制などの効用を挙げている。クレジットカードやデビットカードを使っての支払いは普及しているため、問題なく議会で承認されるとみられる
2030年までにキャッシュレス国家となるスェーデン
スウェーデンでは、80%の小売店での決済は電子決済によるものである。銀行は7歳以上の個人にデビートカードを発行している。これは実に人口の97%以上がデビットカードを持っていることになる。デビットカード以外にもスマートフォンアプリのMyWalletが使われ、電子決済の普及は非常に高い。そのため、商品やサービスの現金決済は全体の3%にすぎない。
銀行もキャッシュレス化の方向に向かっている。2012年には、スウェーデンの6大銀行のうち、現金を扱っている銀行は1社となった。銀行のキャッシュレス化によって激変したのが銀行強盗である。2011年に9,000件もあった銀行強盗件数が 2012 年には21件まで減少したのである。
キャッシュレス化が進む一方で、スェーデン国立銀行は新紙幣の発行と流通を2015年中に行うとしていることは興味深い。新紙幣の表紙には20世紀を代表するスェーデンの作家( Astrid Lindgren, Evert Taube)、女優(Greta Gabo)、監督(Ingmar Bergman、経済学者(Dag Hammerskjold)などが含まれている。
その他にも、オランダでは商品やサービスの支払い決済の85%、ノルウェーでは95%は電子決済である。これほど北欧諸国で電子決済が普及した理由は電子マネー、クレジットカード、銀行デビットカード、スマートフォンアプリ、インターネットのオンライン決済など現金が必要ない電子決済のインフラが整っているからである。ノルウエイは2020年までにキャッシュレス社会となる。
賛否両論
しかし、電子決済に関しては、賛否両論である。まず、個人のプライバシー保護の問題がある。日常生活におけるすべての経済活動(ものやサービスの売買)が監視可能な状態となる。現金取引は経済活動の匿名性を保つことができることから自由市場主義の基本である。その匿名性がなくなると、政府や金融機関が全ての個人、事業者の経済活動の情報を持つことになる。
電子決済化が進むにつれて、スキミングを含む詐欺事件が増加するリスクが増す。スウェーデンでは、2000年に3,304 件あった詐欺事件は2011年には20,000件、 2013年には140,000件と大幅に増加している。そのため、同時にセキュリティの強化が必要不可欠となる。
さらに、最新電子技術の弱者とも言われている高齢者がキャッシュレス化への変化に対応できないことがある。高齢者だけでなく、当然現金決済を好む人もいる。旅行者にとっても不便なことがある。現金決済が出来なければ、ペットボトルの飲料水の購入や交通機関さえ利用できないことになる。事前にプリペイドのチケットの購入や登録された携帯電話が必要となるといったマイナス面もある。
国家が強制的に現金使用を廃止することはむしろ、自由民主主義国家ではなくなる。個人が現金を使うか電子決済を利用するかの選択肢を選ぶ権利はあるはずではないか。しかし北欧の社会は未来社会の鏡といわれる。明らかに世界が北欧社会に追随して動いていることは確かだが、それが管理社会への道でないという証拠はどこにもない。キャッシュレス社会は世界統一政府につながるとする意見もある。
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