世界中で進められる大規模演習の意味

08.03.2016

Photo: Russia travel blog

 

米韓による合同演習「キーリゾルブ」と「フォールイーグル」が開始され、北朝鮮が鋭く反撥するなど東アジアに緊張が高まっている。参加する兵員が32万人で規模が昨年より1.5-2倍となっていることや先制攻撃を想定した実戦に対応していることなど、米韓の協力関係を築くための教育的な側面は影が薄くなった。折しも中国の南シナ海、東シナ海への進出問題の最中であり、中国に対する威嚇の意味合い、ロシアへの牽制など東アジア安全保障の要となる意気込みがうかがえる。

 

 

世界に目を移すと大規模な軍事演習が目白押しで、これまでにない世界的軍事演習ラッシュである。紛争の続く中東と緊張が高まる東アジアを筆頭に、世界経済の低迷の中、あたかもこれから紛争が拡大し戦争につながるリスクを如実に反映したと言える。

 

201638日現在でわかっている主な軍事演習を以下にまとめた。

 

Cold  Response 2016 (2/22-3/9)

ノルウエー(下の図)、NATO参加国14カ国、15,000人を動員

 

Northern Thunder (2/14-3/10)

サウジアラビア、20カ国、100,000人が参加。

 

Ramses 2016 (3/6-数日間)

アレキサンドリア近くの地中海、対リビアのフランス、エジプト

 

Force 18 (3/12-3/8)

Pune、インド、ASEAN 9カ国に8カ国がオブザーバー参加した全17カ国による演習。

 

Key Resolve & Foal Eagle(3/8-4/30)

韓国、米軍 15,000名と韓国軍300,000名が参加。

 

Anakonda 2016 (6/7-6/17)

ポーランド、24カ国、25,000人を動員。

 

Border 2016 (3/6-)

ギリシャおよびブルガリアによる国境警備強化を目的とする。

 

 

Source: Levanger Kommune

 

これらの行われる地域を見ると東アジア、シリアを中心とする中東とアフリカ、欧州(北欧とギリシャに接する南欧)、南シナ海とインド洋の安全保障を確保する現時点での紛争地域に重なる。

 

しかし紛争の当事国に加えて周辺の諸国が積極的に演習に参加していることから紛争の拡大と紛争を避ける難民を予想した国境警備への危機感が募っている現実が読み取れる。

 

演習には仮想敵国が存在することが普通だが演習の中には難民やテロなど不特定多数の反国家組織を対象とするものも含まれるが、大規模な国内テロにおける戒厳措置のための訓練と取れなくもない。欧州における難民危機や国内テロ、暴動など仮想敵国からの攻撃と国内の治安で軍隊の出動が起きることを想起させる。

 

 

Source: dvids

 

共通しているのはどの演習でも最新兵器が使われることだ。現代の戦争では電子化で複雑な電子機器と先端兵器に慣れ、同盟国間の軍隊のコミュニケーション能力が問われる。米韓の「キーリゾルブ」演習ではシミュレーションを中心に指揮系統の協力関係を堅固にする目的がある。現代の戦争は情報戦でもあり多国籍軍の指揮系統能力で勝敗が決まりかねない。

 

これまで韓国やサウジアラビアなど同盟国に大量の武器を供給し武器の標準化で軍事的影響力を高めてきた米国であるが、欧州や日本は米国からの調達を減らし独自に武器を開発する傾向が強まっており、そうした国を含む軍事演習は同盟国が情報を共有し共同作戦を実行するためには必要不可欠となていることが背景にある。

 

軍事演習によって多国籍軍の意思疎通が深まり交流が団結力につながることは確かだがその矛先がどこに向くのか、戒厳令によって自国民に向くことがないとも言えない。