料金を値下げしないエネルギー企業の思惑

21.01.2016

Photo: This is Money

 

Big Sixと呼ばれる6大エネルギー供給企業(注1)のなかの一社、E.Onはこの2月からガス料金を5.1%値下げする。しかし天然ガス価格はこの12カ月で32%価格が減少、2年間で45%値下がりしていることからすると小売価格への反映が鈍い。

 

 

(注1Big SixとはBritish Gas(英国)、EDF Energy(フランス)、E.ON UK(ドイツ)、npower(ドイツ)、Scottish Power(スペイン)、SSF(英国)の6社。

 

E.On社は発電コストが12カ月で13%、2年間で22%下がっているのにもかかわらず200万人の顧客に対して電気料金を値下げしない。電気とガスの両方を同社と契約する200万人の顧客にとってエネルギー料金が実質2.8%の値下げ(金額にして1092-1124ポンド(日本円で18.1-18.6万円)しかならない。

 

航空機の燃料に対するサーチャージは敏感に燃料価格を反映するのに、原油と天然ガスの値下げが何故エネルギー料金に反映されないのだろうか。E.On社の説明によると1年間固定価格契約により341ポンド(6.4万円)節約が可能なプランを用意したという。

 

E.On社はエネルギー自由化により顧客の流出を食い止めつなぎとめるためには料金値下げで還元せず長期契約の節約を消費者にアピールすることにしたのである。エネルギーアナリストのJ. Malinoskiによれば「エネルギー企業が元売り価格を料金に還元しないために顧客は一人当たり500ポンド余計に支払っている」という。

 

 

Source: Ward Alternative Energy

 

少なくとも長期契約の節約分から推定して、エネルギー企業が価格を下げられる余力があることが明らかとなった。エネルギー料金に元売り価格が占める割合は505で残りは配管設備とグリーンエネルギー開発投資にあてられる。

 

エネルギー企業は元売り価格の変動に対して料金を下げられない理由にエネルギー市場の様々なリスク要因があるとしている。

 

 

英国は2030年までに8基の原発を新規に設置する計画であるが、201510月の習近平訪問時に中国の原子炉を導入することに同意し、建設が遅れているヒンクリーポイントにアレヴァ社の最新型原子炉をフランスEDF社と中国が共同で建設を進めることになった。

 

電力コストと温室効果ガス排出の観点で進められてきた原子力発電も廃炉や使用済み核燃料処理サイクルを含めると負担は予想以上となり、設計基準の見直しで建設コストが高騰したことを考慮すれば、電力会社にとってはリスク要因のひとつである。したがって原発に関しては価格への上乗せが行われれば、値下げは期待できない

 

しかしガスについては201577日、英国競争市場局(CMA)がエネルギー市場調査の結果を発表した。CMAはこれまで多数の消費者が電力、ガス料金体系や供給事業者の変更を行わず、過剰にエネルギー料金を支払っていたと指摘している。CMA20項目にわたる改善策を提案したがその一つが電力、ガス料金に上限設定を行う必要性を示した。

 

 

 

E.On社のガス料金値下げはCMAの指導に基ずくものということができるが、その代わりに同社は顧客囲い込みの長期契約を求めた。自由化により携帯キャリアと同じような「大競争」時代に突入したといえるだろう。