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人間の記憶をつかさどるシナプスの大きさを正確に測定した結果、これまで考えられていた容量の10倍大きいことがわかった。米国の研究グループ(Salk Institute)がシナプスの記憶容量を測定した。その結果、平均的なシナプスが4.7ビットの情報量を保持できることがわかり、脳全体の記憶容量は1ペタバイト(注1)に達することが明らかになった。
(注1)1ペタバイトは2の50乗(約1125兆バイト)。書類で言えば4段重ねのファイルキャビネット2000万台もしくはHD画質の動画13.3年分に相当する。
eLifeに掲載された研究結果は同時に脳記憶が極めてエネルギー効率が高い記憶媒体であることを示しており、将来の計算機に必要な大容量記憶媒体の指針となるかもしれない。
少なく見積もっても人間の記憶容量はこれまで考えられてきたものより10倍の容量を持つことになった。神経伝達物質が放出されることでシナプスを経由して電気信号が神経細胞に伝達される。脳機能は複数の神経細胞がシナプスを介して電気信号(情報)を伝えることによるが、シナプスの容量が大きければ許容情報量が増える。
1本の神経細胞は数千のシナプスに接続されひとつひとつのシナプスが数千の神経細胞に接続される。情報信号はシナプスを伝わって伝えられるため脳機能障害はシナプス機能障害による。しかしシナプスの機能は解明されていない部分が多い。大きいシナプスはより強力に周辺の神経細胞を活性化することがわかっている。研究チームは記憶を司る海馬組織の3Dイメージを調べているうちに一本の神経細胞の軸索がと近くの神経細胞にふたつのシナプスが接続しようとすること、すなわち重複情報を伝達することがあることに気づいた。
Photo: Salk Institute
しかしそのような機能を持つシナプスと他のシナプスとの大きさの差は8%で大きいほど記憶容量が大きい。26種の異なるサイズは4.7ビットに相当することから脳全体の記憶容量はこれまで考えられてきた容量のおよそ10倍である1ペタバイトであることがわかった。また成人の日中活動のエネルギー消費は20Wにすぎない。
研究チームは未来の計算機が“Deep learning”(注2)と呼ばれる学習機能を持つためには高度な情報認識と伝達能力が必要とされ、今回の発見はその開発にも役立つとしている。
(注2)機械学習のなかの深層学習と呼ばれるニューラルネットワークの学習手法。データから高度な学習を行うためのアルゴリズムをさす。自動運転車の制御ソフトウエアなどに応用されている。