Photo: Spaceflight Insider
映画「オデッセイ」の影響で一段と注目される火星探査の目的は一つではない。火星移住者を募り希望者が殺到することで明らかなように地球を捨てて新たな惑星移住やその中継基地となる「宇宙移住」の目的と、生命の誕生を知る手がかりを得るという「生命の起源」に関するものである。
後者は火星がどのような気候変動を経験したのか、またその中で有機物質の生命誕生に結びつく化学的進化と複雑化の過程を知る、という宇宙と生命の基本的な問題に答えるべくこれまで、無人探査機での調査が行われて火星の地質や地場、大気などの知見が積み重ねられてきた。
米国、ソ連を中心に1960年代から多くの探査機が送り込まれ、地球からの観測と組み合わせて、大気にメタンが含まれることや水が存在することが明らかになると一気に有人探査と移住への関心が高まった。当初はソ連と米国が競い合っていた火星探査は新しい無人探査機の打ち上げに続き米国、ロシア、欧州の2030年代に有人探査が予定されている。
NASAが計画中の探査機の一つInsight(Inter Exploration using Seismic Investigations, Geodesy and Heat Transport)がデイスカバリー計画の一つとして2016年3月に予定されていた。しかし搭載機器の不備でNASAはInsightの打ち上げを2年延期し、2018年5月に打ち上げることを決めた。2年後となる理由は地球と火星の位置が(燃料消費の観点から)打ち上げに適した最適になる周期が2年2カ月であることによる。
Insightは2007年に打ち上げた探査機Phoenixの後継機で米国以外にフランスとドイツの観測機器が搭載されている。Phoenixは火星の北極圏に2008年5月に着陸に成功したがバッテリーが冬季にかかりダウンし観測機能を喪失した。Insightでは地中観測を中心とするためフランスの開発した地震計の不具合が致命的であったため延期を決定した。
Photo: NASA
2015年7月にはInsightの着陸に備えて通信を中継する運用中の火星探査機MROの軌道修正に成功しい準備を整えていた。MRO(上の写真)は2005年8月に打ち上げられた高性能カメラを備えた火星探査機で、この通信支援なしではInsightのデータを地球に送ることができないが、Insightの打ち上げ延期で元の軌道に戻る。MROは太陽電池で動き軌道修正システムは今後19年間は動作可能なので2年後に軌道修正を行う。
一方、欧州版NASAのESAはNASA撤退で中止されていた火星探査機ExoMarsの打ち上げをロシアの協力で再開した。ロシアのプロトンロケットで3月14日に打ち上げられるExoMarsは火星の周回軌道に乗り大気中のメタンガスを調査し、2018年には火星表面に探査機を送り込む予定。メタンの調査は生命の起源に関するもの。
NASAが予算削減でプロジェクトから撤退した隙を狙ってロシアがESAと協力するという構図になった。シリア空爆以来ロシアと米国の関係が悪化したが逆にロシアと欧州との距離は科学協力においては縮まった。ロシア側の協力は打ち上げ代行にとどまらず火星表面への探査機着陸に降下モジュールを提供するもので、このため両国の関係機関は密接な連携が必要になる。