Photo: middle east confidential
イランのアラク原子炉の炉心撤去によってプルトニウムの生産能力がなくなり制裁解除となったイランは核より経済成長を望んだ。国際社会で孤立していたイランは国際世界に「経済成長国」としてのイメージを植え付けようとしている。いよいよ黒鉛炉が稼働してプルトニウム生産を目指す北朝鮮と好対照である。
そのイランが2016年1月16日にイランがエアバス社から118機のジェット旅客機を270億ドルで購入した。またボーイング機からエアバスへの変更に伴う技術移転とパイロット訓練についても契約を交わした。
エアバス社の部品調達の10%が米国からのものであり、米国の制裁解除がないと4年での納機は困難とみられていたが、米英が同じ日に制裁を公式に解除した。制裁解除に強い影響力を持つ米国に見返りとして予想されていたボーイング機購入は実現しなかった。
エアバス社の超大型機A380は中東の3大エアラインが大量発注されエアバス社の財政を支えたことは記憶に新しい。中東とエアバス社のつながりは深いが日本にも乗り入れているイラン航空は国内線にナローボデイエアバス機、国際線にボーイング機を併用してきた。イラン航空は今回、老朽機を更新し国際線を充実させるために慎重に機種を選んだ形跡がある。つまり華やかなトップセールスとして報道されたがその内容は堅実な成長路線をうかがわせるものであった。国際線の充実は経済成長路線には欠かすことができない。
エアバス社から購入する118機の内訳はナローボデイ機45機とワイドボデイ機はA38012機を含む73機となった。特筆すべきはどちらのカテゴリでも燃費に優れた最新機種と従来機種を取り混ぜた極めて保守的な購入プランとなっていることで、機体価格の安く納期の短い従来型とバックオーダーを抱えた新型機を拮抗させた極めて現実的な機種設定となっていることで、購入に際してエアラインの希望を反映させた堅実な買い物となった。
ナローボデイ機はA320ceoと呼ばれる従来機が21機、低燃費新エンジンのA320neoが24機、ワイドボデイ機はA330ceoが27機に対してA330neoが18機、A350-1000が16機、A380が12機であった。新鋭機A350XWBには手を出していないのは納期の遅れを避けたためだろう。
A320ceoはシリーズが6,000機以上生産された超ポピュラー150座席の機体で燃費を気にしなければA320neoとの差はなく、他のエアラインの大量発注でもceo、neoを取り混ぜて行われる。A330neoの引き渡し開始は2017年となる。人気の高いA350XWBも納期を考えるとceo選択は当然かもしれない。A380の発注は途絶えていて生産ライン廃止の危機にあったがANAが3機、イランが12機で販売が復活した。結果的にエアバス機大量発注はボーイング機と決別し欧州寄りの路線をとるイラン政府の方向に沿うことになった。
またイラン政府は原油生産量を日量50万バレル増産を決めた。しかし世界的な原油安の続く中での増産は原油市場の再構築の障害となると中東諸国は警戒する。中東諸国の原油生産量は減産したいところだがイランの増産指令は一石を投じることになる。エアバス機購入も原油増産も米国の思惑と逆の路線であるがその堅実さにイランの国際社会復帰の意思がはっきりしている。