パリ協定の実現に暗雲

26.02.2016

Source: United Nations

 

テロにもかかわらずパリで大々的に開催されたCOP21201512月)には196カ国が参加し、先進国・後進国の区別なく合意されたパリ協定は京都議定書(1997年)に代わる削減基準を打ち上げた。根拠は産業革命以降の(人為的原因による)地球の平均気温上昇を2度以下に抑えるとして温室効果ガス削減に全ての加盟国が取り組む。平均気上昇を温室効果(注1)によるとし、目標を2度以下に抑えることとした。このための温室効果ガス排出量規制は年1億トンとなり、具体的には①二酸化炭素の排出量規制と、②大気から二酸化炭素を除去する両面で規制が進められることとなった(P. Williamson, Nature 530 153 (2016))。

 

(注1)地球の気温上昇は温室効果ガスの排出のみによる前提に対しては異論が多く長期的には太陽黒点の周期的な活動低下により寒冷化に向かっている。短期的な気温上昇は都市部の人間活動(人間の発する熱、エネルギー消費、ヒートアイランド現象など)により局所的な気温上昇のため過大評価されているとする専門家もいる。近年の異常気候を温暖化としそれが全て温室効果ガスとする考え方は短絡的である。

 

 

IPCCの路線変更と数値目標

これまでに様々な二酸化炭素除去の方法は提案されていた。しかしパリ協定の数値目標を達成するためには実現性やコスト、さらに社会・環境への影響について検討が必要となる。というのもパリ協定の数値目標が厳しいためどの方法をとるにしても、大量の二酸化炭素除去が地球環境と生態系に及ぼす影響が問題となる体。問題はここまでIPCCが環境・生態系への影響の問題を考慮してこなかったことである。そのため環境・生態系への影響の評価をIPCCが本腰を入れて行う必要がある。

 

ようやく二酸化炭素排出量の規制だけでは地球温暖化を食い止めることができないことがわかっってきたため(注2)、いよいよ大気中の二酸化炭素固定による除去を併用することにした。しかし問題は環境・生態系への影響アセスメントが実はできていないことである。

 

(注2)排出量規制は現在と近未来にわたって産業革命以降の排出で蓄積された大気注の二酸化炭素の増加を抑えるだけで、蓄積された総量を減らすことにはならない。排出量規制が進まない中で将来の人口が2050年に倍増すると予測され排出総量の増加に歯止めをかけることは困難である。

 

 

現実性の乏しいIPCCシナリオ

2100年までに地上の平均気温を2度以内に抑えるために、IPCCは空気中の二酸化炭素を固定し除去するとしている。具体的には空気中の炭素固定と貯蔵のために、①バイオエネルギー利用と②光合成(植林)で実現しようするもの。バイオエネルギー利用ではトウモロコシなどの植物を育てて燃焼し発電して燃焼ガスから二酸化炭素を回収する。回収され二酸化炭素は液化して地中に貯蔵する。一方、植林では光合成により直接、二酸化炭素を大気中から取り除く。

 

いずれも光合成という生物の浄化作用を利用する点で環境に優しいように思えるが、実際に数値目標を達成するためには地球上の農地の1/3ほどが必要になる。また環境・生態系への影響は計り知れないものがある。要するに現実的でないということになる。本気で取り組むためにはIPCCに環境学者、農水産専門家を取り組み片手落ちのないアセスメントを行ってリスクを取り除くことが必要だ。何れにしてもIPCCは抜本的な改革と相当な努力が必要だろう。