Photo: theatlantic
ビルゲイツは自身のブログでマラリアなどの感染症を媒介する蚊の危険性を警告したが、毎年地球上で63万人のマラリアによる死亡が確認されている現在、最も多い感染症の媒介は蚊によるものである。
ミュータント蚊
デング熱の流行を阻止するためにミュータント蚊が開発され、自然界に放たれている。遺伝子組換え生物について懐疑的な専門家もいる。南米で流行しているZikaウイルスが2012年からまかれているミュータント蚊が関係しているとする意見がある。ミュータント蚊開発の背景は蚊によって媒介されるマラリアなどの感染症を撲滅するためのものであった。
1950年代に見つかったZikaウイルスの近年の大流行は中南米の新生児に小頭症などの成長障害を引き起こす深刻なものとなった。2015年5月にブラジルで報告されたZikaウイルスの感染者は150万に及び中南米全域に影響するとされる。専門家によると今後、アフリカでの大流行でエボラを上回る11,000人が死亡する可能性があるという。
Zikaウイルスは感染者の3/4が自覚症状がないまま保菌者となり蚊がヒトからヒトへウイルスを運び妊婦の感染で出産時に新生児に障害をもたらす。蚊の生息できない地域は大流行の恐れがないとはいえ妊婦の中南米・アフリカへの旅行は控える必要が出てきた。
Zikaウイルスをネット販売するATCC
そのZikaウイルスは世界最大の生物資源バンクであるATCC(American Type Culture Collection)でネット購入できることは一般には知られていない。冷凍乾燥したウイルスの価格は599ポンドである。ATCCは1925年に設立されたこの機関には細胞株3,400種以上、微生物株72,000種類、遺伝子株約800万種類が保存され世界中のバイオ研究者が利用している。
ATCCは民間企業addgene社、イギリスのHorizon Discovery社、オーストリアHorizon Genomics社と連携して遺伝子変異細胞の分譲サービスネットワークを形成している。2012年からヒトiPS細胞分譲も貸ししたATCCは日本では住商ファーマインターナショナルが代理店となっている。本拠地のあるヴァージニア州の建物はNIHに近く無停電電源を備え、セキュリテイの高い保管体制を誇る。
Zika熱は過去10年間を見ればミクロネシア、ポリネシアで流行があった後に2015年からブラジルを中心に中南米で流行している。死亡率は高くないが妊婦が感染すると新生児の小頭症など発育障害を引き起こすとして、WHOの警告を受けて各国で蚊の駆除を含む予防対策が行われている。そのZikaウイルスがATCCからネット販売されている。ATCCへの寄贈は1947年、ロックフェラー財団による。
ミュータント蚊は次世代がない
ミュータント蚊はデング熱とZikaウイルスを媒介する蚊(Aedes aegypti種)からつくられた。雄のミュータント蚊は刺すことができず死滅するような遺伝子が組み込まれている。ミュータント蚊は遺伝子組換えによる影響が詳細に評価されないまま自然界に大量に放たれた。
ミュータント蚊は卵が死滅することで増殖できないという「キル・スイッチ」を持っている。サンゴ、キャベツ、ヘルペスウイルス、大腸菌などと遺伝子組換えによってOX513Aという遺伝子組換え蚊が誕生した。この蚊が雌に生ませた卵は刺す能力を持たず死滅するように設計されているため、蚊を撲滅することができると考えられている。
Source: ANTI MEDIA
2012年から330万匹の遺伝子組換え蚊が放たれた結果、96%の蚊が死滅したとされる。ブラジルとケイマン諸島でミュータント蚊が放たれた際の住民への説明は行われなかった。これまで70,000万匹のミュータント蚊が放たれたがフロリダキーズの135,000名の住民は反対運動を起こしている。「遺伝子組換え昆虫による害虫駆除は、実験段階で自然界に放出することは人間を使った実験に等しいというものである。今回のZikaウイルス発生場所の中心地は2015年にミュータント蚊が放たれた地域であることから関係性の疑いが持たれている。
ミュータント蚊がヒトを刺さないとすれば、その世代に関してはウイルス流行と関係なさそうに見える。しかし蚊の大量発生でもない限り、Zikaウイルスの流行が(ミュータント蚊の放たれた地域で)これほど急速に起こったことの説明がつかない。
厳密にはZikaウイルスが発見されたのは1947年。ウガンダの森に生息する猿の血液中から見つかりロックフェラー財団がウイルスをウイルスバンクに寄贈して、現在はATCC VR-84として599ユーロで凍結乾燥した検体を購入できる。これまで今回のような大流行は報告されていない。なぜ蚊の大発生の報告がないのに大流行したのかは謎である。
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