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NASAは火星まで7日間で到達できる推進理力を得るために中性子に頼らない新型核融合(Aneutronic Fusion)(注1)を開発している。現在運転を目指して研究開発が進められている核融合炉は原子炉の代わりに核融合炉でタービンを回す効率が悪いものであるが、この装置では電子を発生するので発電効率が高い。この電力を電磁推進に使用できるので惑星間飛行などの推進力源として期待されている。
(注1)発生する中性子のエネルギーが出力の1%以下であるもの。従来型の核融合反応では80%の出力が中性子のエネルギーとなる。エネルギー効率と高エネルギー中性子による放射能と容器の劣化など、融合炉の運転におは中性子が問題になる。
D-T反応として知られる重水素と三重水素の核融合反応では中性子が放出される。重水素を低く抑え高温で反応させることで中性子の発生を抑えたとしても中性子によりエネルギーが散逸することが欠点である。この中性子の収量は数%に及ぶので無中性子核融合には適さない。しかしD-T反応に必要なエネルギーは無中性子融合の1/10程度なので世界の融合炉はD-T反応を目指している。無中性子融合はエネルギー効率などメリットが多いが、到達条件がD-T反応より10倍厳しい。
次にp、3He、6Liを含む反応は反応断面積が高くない。特に3Heは寿命が短いため自然存在非が少ないので中性子照射で作らなければならず燃料には適さない。地球上より多いとされる月表面でも3Heの存在比10-8程度である。可能性のある反応はp-11Bであるため、現在はこの反応系を対象とした研究開発が行われている。現実的には従来型のプラズマ閉じ込めでは融合反応条件は磁場閉じ込め方式(トカマクやhエリカル型)では到達できないため、レーザー圧縮方式が現実的である。
短パルス大出力レーザー技術の進歩(注2)で導電性フォイル上に積層されたボロン膜をターゲットにした核融合反応が現実的である。このためにはペタワットを超える大出力レーザーが必要となる。レーザー照射で発生した陽子がボロン原子核と衝突して励起状態の炭素原子核(12C)を生成し、それが崩壊してヘリウム4原子核(4He)とベリリウム原子核(8Be)が放出される。p-B衝突で生成される3個のヘリウム4原子核は2.9MeVのエネルギーを持つためその電磁反撥力が推進力になる。
(注2)現在世界最高出力のペタワットレーザーの出力は波長1.05μm、出力2x1015W、100MHzであるので、30μm径のエネルギー密度は2x1019W/cm2となる。
無中性子核融合は革新的であるが実現は相当先であろう。しかしNASAのジェット推進研究所など多くの研究所で開発研究が始まっている。無中性子と言っても1%の中性子のエネルギーや放射線も無視するわけにはいかないが、少なくともD-T反応より経済的で放射線効果のない反応系である事は間違いない。