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旅客機の墜落件数(注1)は少なくなったとはいえ、ひとたび事故が起これば数100 名が犠牲となる。上空でエンジントラブルなどにより墜落をまぬがれない事態がおきたとき究極的な安全装置は緊急脱出装置だが、数100席の脱出装置を備えた機体は高価で重量が増加するだけでなく、脱出後に衝突したりパラシュートが絡まるなどによる事故も多く発生するので現実的ではない。
(注1)航空機で死亡する事故確率は9/100万で「起こるはずのない重大事象」とされる100万分の1の範囲にあるといっても、ほぼ10万分の1で交通事故の1/30なら「絶対に起きない」とはいえない。
Source: CBCnews
このほど客席キャビンを機体から切り離してパラシュート降下させる新しい概念の安全システムが提案された(http://www.dailymail.co.uk/sciencetech/index.html)。提案者はVladimir Tatarenkoというロシア人の航空工学の技術者。彼の提案では旅客機のキャビンを機体が吊り下げる構造で緊急時には機体から切り離されて巨大な2個のパラシュートで降下する。着水時にはキャビン側面にフロートが展開するが、陸地への降下ではこのフロートがエアクッションの役割を果たす。
Source: Mailonline
ジェット戦闘機の乗員は緊急時に火薬で座席ごと射出されてパラシュートで降下することができる。低空飛行時に機体の姿勢によっては地上に激突はまぬがれないがソ連の射出座席は位置を修正して上空に飛び出す工夫がしてある。安全をおろそかにするイメージのソ連の射出座席の技術は意外に高かった。
1960年に運用開始されすでに退役している米空軍の三角翼のB-58戦略爆撃機は超音速(マッハ2)で飛行できたが、乗員の脱出装置はカプセル型(上の写真)となっていて脱出時にカプセルが閉じて、着水時には救命ボートになり陸地では非常シェルターとなる画期的なものが採用された。
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今回のアイデアとしてはB-58のカプセル式脱出装置を大型にしたものだが、脱出キャビンは事故の多い離発着時においても起動できるとしている。ただし事故の8割は離発着時の数分間に集中しているため、高度が低い場合には機体から切り離されてから姿勢制御と高度をとるための工夫が必要になり機体の構造設計に抜本的な変更が必要になる。また事故の多くは突発的なものであり時間的な余裕がない状況で機体から切り離されても安全に着地できるためには航空機メーカーの負荷は相当大きくなるだろう。しかしB-58のカプセルが旅客機の座席ごとに取り付けられているとしたら少々狭くても安心して快適な旅となるだろう。筆者ならフルフラット座席よりこちらを選びたい。
緊急時に脱出して乗客・乗員の生命を守るシステムの概念が提案されたことでコストを優先する航空機メーカーにあらためて安全性優先への回帰をうながす契機となるのではないだろうか。