Photo: iphone8update
SONYが世界で初めて有機ELTVを市販したが、その後撤退し、現在は韓国のLG社が大型TV市場を独占している。一方でSamsungは電力消費の少ない特徴に注目しいち早く同社の主力商品Galaxyスマホに搭載した。有機ELの低消費電力特性は液晶と異なり自発光なのでバックライトが不要な点にある。もともとはイーストマン・コダックで発明されたが技術的に困難で同社では実用化できなかった。日本が国研や企業の研究所の地道な基礎研究により開発された「日本が先導した技術」である。
発端はアイフォーン8
アップル社がアイフォーンに有機EL搭載を決め、これまで委託をしてきた台湾のホンハイ(フォックスコン)は有機EL画面の大量調達が必要になった。アイフォーンはスマホ販売台数のシェア47.7%でアンドロイド端末と(台数の上では)拮抗する存在だが、それ以上に若い世代の最先端アイコンとして世界的な影響力がある。アップル社はスマホの弱点であるバッテリー寿命を改善するために2018年(アイフォーン8)に有機EL採用を決断した。ホンハイの受注先はLGとSamsungがあるが、LGのELパネルはTV向けでありアップル社と競合するSamsungからはELを仕入れられない。将来の有機ELの発展性を考慮すれば有機ELの量産体制を持つに越したことはない。これがホンハイがシャープ買収を目指す理由である。韓国メデイアはSamsungとLGがアップル社と有機ELパネルの受注が間近であると伝えるている。また両企業はさらに設備投資で追随を許さない独占を目指して大型設備投資の予定。ホンハイはパネル供給を受けてこれまでどおり組み立て生産すればいいはずだが、社内で調達することで一貫生産が可能なこととアイフォーン以外のスマホへの搭載も可能になるELを手っ取り早く量産するために弱体化したシャープに目をつけた。
シャープの現実
経営難のシャープの買収先はホンハイと産業革新機構のいずれかになるが、ホンハイの思惑とシャープの現実にギャップがある。シャープは有機ELのテストデバイスは作っているが、生産性と価格面でメリットがない事から量産はELでないIGZO液晶に主眼を置いてきた。それもそのはず、Samsungの有機ELは原価割れで販売せざるを得ない現実がある。
ELは「売れるば売れる程赤字になる事業」なので、韓国政府の対応からの補助金で補填しているとみられる。アップル社もジョブスは有機ELは必要ないとの判断から採用を見送ったが、現CEOは販売が減速しているアイフォーンに先進技術を搭載するため有機EL採用に踏み切ったと考えられる。現CEOは画面サイズの選択肢を持たせるなど販売戦略に幅を持たせる戦略なので、全機種が有機EL化するわけではないとみられる。
ホンハイの思惑通りシャープが有機ELを量産できるかかと言うと、少なくとも2018年までという枠内では困難だと言わざるを得ない。しかしホンハイはすでにアップル社と有機ELの納品を契約したようだが、ホンハイにはEL技術は無い。ホンハイがシャープに作らせると考えているなら安易すぎる判断だろう。
ホンハイの思惑
シャープへのホンハイの投資はEL量産に向けてのものであり、関連ない部門は切り売りするので切り売り文化を持たないシャープにとっては大きな痛みを伴うであろう。一方、シャープは融資面で優位に立つホンハイをちらつかせ、国内からのさらなる出資金アップを狙っているのであればしたたかである。
何れにしてもシャープは有機ELを実験レベルでは継続しているが、量産体制には達していない。ホンハイはIGZOの制御回路が有機ELに転用できると考えているようだが、有機ELとシリコンでは発光原理が異なり、電圧など制御系も異なるので使い回しは無理であろう。一方、LGが大型投資を決めたがホンハイが仕入先としてLGを採用しないとすれば、有機ELの調達先が無い(つまり弱みがある)。
岐路に立つのはホンハイ
国内では、出光興産、カネカなどの化学メーカーが材料開発しているようだが、高精度表示デバイスとして使うには制御系などもあるため、化学メーカーだけではELデイスプレイは作れない。シャープもアップル社への出荷だけでは利益にならないので、有機ELの生産をしたところで回復は難しい。またアップル社も、将来的にはリスク分散のためホンハイ以外のメーカーに作らせる可能性も残っている。それでもアップル社は高精度液晶パネルの供給先としてシャープを高く評価してきた。ホンハイがシャープにこだわるのも一つにはシャープのブランド力だ。
アイフォーン依存のホンハイもやはり危うい。ホンハイを選べば有機ELでアイフォーンの部材メーカーに転落し、革新機構を選べば液晶部門のJDIに吸収されて主力製品(液晶)が消える。シャープばかりが「究極の選択」を迫られているように見えるが、ホンハイもアップル社もスマホ将来戦略に陰りが見えてきている。ジアップル社に新製品開発を任せ、委託生産と部材調達徹する一見合理的なピラミッドが崩れつつあるのかもしれない。