中国とインドは国民の金需要が非常に高い国である。昨年、インドは中国を上回り、世界最大の金消費国となった。実に世界の金需要の26%を占める。
インド人が金を購入する背景
インド人が金商品を買うのは、文化的や宗教上の習慣以外に心情的に金を「無限」の価値あるものとして信じているからである。
インドでは「ダウリ」と言う結婚式の時に金を買う習慣がある。そのため、結婚式のシーズンである3〜7月と9〜11月にかけて金需要が大幅に伸びる。結婚式のために購入する金は平均して200グラムで、主に身に着ける装飾品として金の指輪、ネクレス、ブレスレット、イアリング、などの金のアクセサリーである。
主流宗教であるヒンズー教も金需要に大きく影響している。ヒンズー教では、金は「光るもの」として繁栄をもたらすと伝われているため、金や銀の装飾品が習慣として購入される。また、雨季で雨量が少ないと金需要が上がると言われているように、インドの農村社会では豊作の年に、資産を金に替える習慣がある。
2012年に導入された金輸入規制
インドの前政権は、2012 年に経常収支悪化が引き起こしたインドルピー安に歯止めをかける政策として、金の輸入関税の引き上げ、「80:20規制」(金の輸入会社は輸入分の20%を輸出しなければならない)、金輸入のための信用貸しの禁止、金貨の取引禁止、など数々の規制を導入した。
その結果、経常収支赤字は縮小したが、金の市場開発団体のワールド・ゴールド・カウンシルによると、密輸量が250トンまで拡大した。インドは1年間で世界の宝飾用金需要の3分の1の700トン以上を占めることから、密輸量は規模が大きく社会問題となった。その金密輸を行っている地下金融組織の撲滅を金輸入規制の緩和政策でモディ現政権は達成しようとしている。
金輸入規制の緩和による今後
昨年の11月に「80:20」規制が撤廃された結果、1月の金輸入は前年度比で8.13%(15.5億ドル)も拡大した。2月末には、金の輸入関税が10%から2%に引き下げられるとされている。そうなれば、金需要は大幅に拡大するとみられている。さらに、2015年の雨季の雨量は少ないとの気象省の予測があることから、農家による金需要が増加するのは確実である。
今後、インドの金需要の拡大は世界の金市場、特に金価格に大きく影響を与えることになる。それはインドの人口構成の大半は30歳以下で結婚する人口が大きいこと。またインドの一世帯の平均貯蓄率は30%と世界で最も高く、そのうち金資産が占める割合は8%であり、この傾向は今後も続くからである。
金を購入する文化的、宗教的習慣は無くなることはなく、世界での経済危機、地政学的危機のリスクが増す中、金の資産としての価値はインド人の間ではその重要性が増すばかりとなる。FRB前議長のアラン・グーリンスパンは「金は世界的に認められた究極の貨幣」と述べている。その意味でインドの金保有の慣習は理にかなっている。