需要の減速と供給過多が相乗的に働いて原油価格下落となっている。もちろん前者はアジア(中国)の経済成長の減速(注1)とアメリカのシェールオイルの極端な増産の寄与が大きい。
(注1)中国国家統計局が発表した2015年度第1四半期GDP伸び率は、前年同期比で7.0%となった。
原油価格調整にOPECが動かなかった理由は
①サウジアラビアが過去の経験により価格調整が市場損失に繋がることを懸念、
②シェールオイルを採算割れに追い込めること、
③原油産出で脅威となりつつあるベネズエラ、欧州へのエネルギー供給の要となるロシア、
④隣国のライバルであるイラン(注2)の弱体化などにより市場の優位性を確立できることを優先したためと考えられる。
(注2)イランが核開発交渉でアメリカが軟化しつつあり、核開発すなわち核武装が現実化すれば軍事力でサウジアラビアを圧倒する。原油価格の下落はイランの財政、ひいては核開発のスケジュールに影響する。
シェールオイル生産を止められない理由
シェールオイルのリグ数は最盛時から43%も減少したが、それでも生産量は減っていない。これは採算性の悪い事業者が去り採算性の良い事業者が独占度を高めて全体としては効率が上がったということだが、実はシェールオイルに特有の「止められない理由」があった。
有力オイルアナリストによれば痛手を受けたはずのシェールオイル事業者が予想もしない「ベネフイット」を受け取ったが、同時にこれによって「止められない」足かせができる。
それはアメリカ政府の税金だ。まずこれまでの常識を越えたシェールオイル掘削にはテキサス州とノースダコタ州がそれぞれ、3.5Mバレル/日、1.2Mバレル/日の原油を生産して、両者を合わせると50%以上の原油生産量となっていた。つまりシェールオイルの生産者は高い集約度で油田は集中しているため、政府の制御がし易いということである。
税制のインセンテイブ
アメリカ国内の原油掘削業者を中東主導の原油価格に競争力をつけるために、原油価格が5カ月以上にわたって$55.09以下である場合、全ての油田は24カ月間6.5%の税金が除外される。さらに24月たっても5月間$55.09以下であれば、税金は4%になる。
8カ月に渡る原油価格下落が継続すれば2015年6月にこの税制優遇措置が発動される。これによって事業者は価格競争力をつけることは間違いない。しかし「飴と鞭」の鞭もあった。
いかなる油田も1年間以上の停止期間があった時点でその場所の掘削事業を終了し環境保護のために元の状態に戻すこと、とある。つまり1年以上休止なら終了とみなして穴を埋め、元の土地にして戻せ、というのである。現実的にはシェールオイル掘削場所の周りには地下深く横穴が縦横に掘られていて、これを元に戻すとなると膨大なコストで、採算割れの債務が一挙に膨らむ。
これらの「飴と鞭」によって掘削事業者は価格が下落しても税金を払わなくて済むが、そのかわり1年以上休止できない、「生産を止めることができない」のだ。アメリカはOPECにこうして宣戦布告しなければならなくなった背景については別記事でかくことにする。