崖っぷちの巨像

Oct. 8, 2014

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 飛ぶ鳥を落とす勢いのサムスン電子の快進撃に陰りがみえてきた。同社は6日の第3四半期の暫定業績発表で売り上げが、前四半期より43%のダウン、昨年同期の60%の急落となった。この業績悪化は同社の旗艦ビジネスであったスマートフォンの市場競争力低下の影響が大きい。スマートフォン部門の営業利益は、第1四半期と比較すると1/3に落ち込んだ。破竹の勢いが劇的に減少した理由は何だったのだろう。



 中国の低価格スマートフォンが急浮上したことと大画面スマホに乗り遅れていたiphoneが競合市場に参入したことでサムソン限定の価値が失われたことなどがあげられる。しかし今年の春に筆者が上海を訪れてモールのサムソンショップをみた印象では、明るいネオンサインの誇らしげな"Samsung"の看板にもかかかわらず、人影まばらであった。高級ショッピングモールでも同様であった。人気がないのである。その後ある大学の研究室のメンバーと夕食を共にしてスマホの話題に花が咲いたが、そこでサムソンが少なくとも中国では浮いた存在であることがわかった。



 一般的には中国人のスマホ熱と新機種への関心は高い水準にある。食事が終わると自分の携帯をみせながら、何故その機種を持っているかを紹介し合うことにした。まず教授は大型画面のスマホをとりだし販売前の試供品であることを告げた上で、自分は老眼なので大型画面しか使えない、といった。しかし本音は端末が無料で使えることが最大の理由であろう。次に准教の女性はおもむろにゴールドiphone5sを取り出した。理由は不明だが明らかにステータスシンボルなのだろう。最後に大学院の女子学生が中国製スマホをとりだした。彼女いわく中国でiphoneを持つ人はお金持ちで、そうでない人は持たない、といった。日本では新規なら無料でも持てるiphoneだが中国では金持ちのステータスシンボルだそうだ。



 スマホの話でひとしきり盛り上がったのだが、サムソンの言葉がでなかったことに疑問を持った筆者はきいてみた。答えは明快、中国スマホより高いから興味ない、であった。なるほど中国人は同じ機能なら安い製品を迷わず買うとすれば売れるはずがない。販売が落ち込むのは大型スマホを少し遅れて購入する層に入り込む余地がないので当然であった。新機能で新製品を買わせようというのはお決まりのITビジネス鉄則であるが、買い替え購入は顧客の満足度と引き換えなので、2年縛りという追い風のもとでも毎回購入に値する付加価値を持たせるのは結構きつい。

 


 サムソン"Galaxy note edge"は最新のスマホで5.6インチ画面に2,560x1600ドットの有機EL高分解能デイスプレイで、その片方が曲面になっていて、本でいえば背表紙が表示画面になっている。利点はバッグに横にいれておくと上から覗くだけでメール受信などの情報が取り出さずに得られる点である。便利だが多くの人は持ちながら歩き回り、手の中に収まっていることの多いスマホでは出番があるのはラッシュ時の通勤くらいだろう。それも混んだ車内でバッグを開けて覗き込むのは勇気がいることかも知れない。アイデアは斬新だが売ろうとするなら「没」企画の気がする。

 サムソンの企業体質として桁外れの集中投資が話題になるが、それに見合った基礎研究投資には疑問が多い。それは絶えない特許訴訟、メモリ以外の半導体チップの外注と自社開発能力の低さなどに代表される。しばらくは中国の低コストスマホが中国では売れ続けるだろうが、それとて飽和は来る。サムソンの歩みは携帯に依存したIT技術の限界でもありそうだ。その先をみているIT企業があるのだろうか。ふと脳裏をかすめるのは日本メーカーの異常なTV(画質)へのこだわりである。どこか似ていないだろうか。