シェールガス(オイル)が期待はずれで投資失敗が相次いでいることはすでにここで取り上げたが、化石燃料総崩れとこれまでの期待を背負って来た原子力(核分裂)エネルギーが福島原発で見直しを迫られている。それらを追い風として米国は官民とも核融合をクリーンエネルギーの柱に据えたようだ。
今週のふたつのアドバルーン発表がそれを代表している。ひとつはロスアラモス、サンデイアと並んで軍事予算で運営されるローレンスリバモア研究所がレーザー核融合の入力パワーを上回る出力が得られたこと、いわば核融合のエネルギー収支が黒字(?)になったと発表したことである。Nature 506, 343?348
(2014)によればレーザー波形を改良することによりプラズマ発生効率を1桁あげ、従来のデユーテリウムートリチウム燃料(注)で初めて、入力を出力が上回ったという。これを核融合が起こっている証拠とし、将来は本格的な核融合が可能だとしている。上の写真がレーザー核融合実験チームで後ろにみえる装置が核融合実験装置。
(注)デユーテリウムートリチウム燃料
デユーテリウム(二重水素)、トリチウム(三重水素)を用いるいわゆる純粋水爆(原爆を起爆材としない)を起こすことで、核融合エネルギーを取り出すこと。実現には1-10億度の高温が必要である。
日本を含む各国が協力してトカマク方式の国際熱核融合実験炉(ITER)(下の写真)を建設予定であるが、そのための実用炉とするための技術開発は並行して日本のJT-60で行われている。外部から加えたエネルギーと核融合反応により発生したエネルギーが等しくなる条件、「臨界プラズマ条件」は2007年に実現しているので、今回の報告は正しくはレーザー照射でもプラズマが臨界条件が実現した、ということになる。しかしレーザーにしろ、トカマク方式のように磁場閉じ込め方式にせよ、実用炉では膨大な電力を必要とし、巨大な装置とならざるを得ない。
ところがロッキードマーチン社(注)の発表では、実用炉をコンパクト化する技術を開発し、100MW発電機を10年以内にトラックに積めるサイズで実用化するという。ソースをたどるとワシントンポストのリーク記事にたどり着く。どのような技術が使われているかについていっさい発表がないため、現時点ではアドバルーンと考えたくなる。しかし官民で共同歩調をとりシェールガス革命を思わせる宣伝が目立つと、期待とともに「狼少年」の思いをいだく。そんなことにおかまいなくJT-60とITERの将来を見守った方が近道かも知れない。
(注)ロッキードマーテイン社
軍需部門の売上高の世界ランキング1位か2位をキープする。最近はステルス戦闘機F22ラプターを性能では上回っていたノースロップ社の試作機を蹴落として、F35とステルス機開発で独占契約を取り付けた。本拠地は海軍工廠で有名なメリーランド州ベセスダとくれば軍との密接な関係もうなづける。意外にもCEOは女性であるが、軍需産業トップが女性であることは米国では珍しくない。