サウジアラビア国王の交代を求める王族内反乱

09.10.2015

Photo: BROOKINGS

 

 サウジアラビアのサルマーン国王(80)が、首都リヤドのキング・ファイサル専門病院の集中治療室に緊急入院したことがアラブ紙のAhulbayt で報道された。1月に王位継承した際、深刻な痴呆症、アルツハイマー病であることが問題視されていた。もはや歩くこと、会話すること、家族を認識することができない状態にあるとされる。入院したことで、サルマーン国王体制の交代を求めてきた王族内の勢力が動き出したと思われる。

 

 イエメンでの紛争、中東での過激派組織への援助、原油価格の下落による財政問題、メッカでの巡礼で起きた2つの事件など、王族内部、国民、他のイスラム諸国からの不満と批判で、サウジアラビアの現政権は危機的な状況にある。

 

王族内部からの批判

 アブドゥルアズィーズ・イブン・サウード初代サウジアラビア国王の孫で王子の一人が9月にサウジ王族に向け、現サルマーン国王の交代を求める要望書を2通出したことを英国ガーディアン紙に暴露した。

 

 「サルマーン国王は健康面で不安を抱えている。実際のところ、息子のムハンマド・ビン・サルマーンが王国を統治している。近いうちに、私の叔父45人が集まり、要望書を検討することになっている。多くの甥たちを巻き込んだ計画を立てており、これは新しいサウジへの道を開くであろう。サウード家の(初代国王から数えて)第2世代の多くが望んでいることである」と述べている。

 

 サルマーン国王はムハンマド・ビン・サルマーン副皇太子やムハンマド・ビン・ナーイフなどサウード家(初代国王から数えて第3世代)に大臣職を任命したことで、王族間で批判が上がった。イブン・サウードには、現サルマーン国王以外に13人の息子が健在、大臣職は兄弟が任命するはずであった。この若い世代による誤った政策がイエメンとの戦争、シリアとイラクとの対立、原油価格の下落、中東における政治不安を招いたとされる。サウジアラビアの国益を守ることを優先しない政策をとることで、政治的、社会的、宗教的な不安を招いたとされる。

 

サウジアラビアでは、初代アブドゥルアズィーズ国王の子供である「第2世代」が60年以上にわたって王位に就いている。ムハンマド・ビン・ナーイフは、初代国王の孫の「第3世代」でこの世代初の皇太子となる。王位継承権を持つ皇太子に抜擢されたことで、サウジアラビア王室が「第2世代」を飛び越した人事に王室全体が混乱を隠せない。

 

Source: Bloomsberg

 

国民の不満

 イエメンからの移民が多いサウジアラビアでは、国民の90%はイエメンとの戦争に反対している。ムハンマド・ビン・サルマーン国防大臣は十分な軍事戦略と出口戦略を立てないまま、戦争を始めたことから、今では「サウジのベトナム戦争」とも言われている。中東で最も裕福な国が、最も貧困な国と大義が明確でない戦争をしている、またこのような戦争は過激派的思想やテロしか生まないと多くの国民は考えている。

 

 中東の中で最もインターネットが普及し、特にソーシャルメディアの使用は若者世代では高い。外部からの情報で、国民とはかけ離れた王族の華麗な生活、サウジ王室による汚職や独裁政治、恐怖政治の実態、格差の問題、そうして「アラブの春」の革命が広く知られることで、同様な革命がサウジアラビアで必要とする考え方が広がっている。

 

 イスラム教のなかで最も厳格なシャリーアを国法としているゆえ、サウジアラビアでは女性にはほとんど人権はない。女性の権利を求める変革や移民に対する社会的差別への不満は年々増加している。前アブドュッラー国王は2015から女性には地方自治体選挙への立候補や投票ができる法令を下し、30人の女性を役職に就けた。女性の社会的地位の向上と人権を尊重する改革を進めようとしていた。しかし、現サルマーン国王は宗教的、原理主義的な思想を持っていることから、改革は後退した。女性からの不満や批判が社会問題になるのは時間の問題である。

 

イスラム諸国からの批判

 メッカで建設クレーンが墜落、巡礼者100人が死亡した事件に続き、メナーのメッカ巡礼中に巡礼者が将棋倒しになり、少なくとも4,173人が死亡した2つの事件に対し、イスラム諸国から管理体制の批判を浴びた。

 

 ニュースの一報が世界中に伝わった際、サウジ政府は死亡者を700人と発表した。だが、事件から6日目に、死者の数が4,173人、うちイラン人が465人であること認めた。サウジ政府が犠牲者数を正確に伝えなかったことに加え、サウジ王室が将棋倒しを引き起こしたこと、死亡者、負傷者、生存者を見分けることなく、トラックのコンテナに投げ入れ、犠牲者を増やしたこと、遺体の扱い方、保存が杜撰であったことで身元が確認できないほど遺体が腐敗したことなど、イランはインタポールに事件捜査を要求、パキスタンは国際的な法的手段を取ると声明をだした。

 

 ムハンマド・ビン・サルマーン副皇太子兼国防大臣と同行した警備隊350人(兵士200人と警察150人)は、悪魔を追い払う石投げの儀式に向う大勢の巡礼者たちのなかを、スーピドを出し通り抜けようとした。その際、反対方向から移動していた巡礼者たちがパニックを起こした。警察と警備隊は石投げの場所への道の2つを封鎖し、移動ができない多くの巡礼者が将棋倒しになったと報告されている。

 

 世界のイスラム教徒の人口15億人のうち、サウジアラビアの人口はわずか3%である。イスラム教最大の聖地で、 生涯一度は巡礼することが義務とされるメッカでの巡礼を管理、安全体制を保証する責任はサウジアラビアにある。イランの宗教指導者が指摘するように、「メッカがサウジアラビアの管理下にあるのはおかしい」が単なる発言でなくなる時がくれば、サウード家は崩壊に向かうであろう