Photo: Randy Montoya
ドイツ南西部のファルツ州にあるビューヒュル航空基地で、米軍が保有する核弾頭が2007年から配備されている。ここには「冷戦時代の最も危険な遺産」と言われているB-61核弾頭が配備されその「近代化」計画を進めてきた。
独テレビ局(ドイツ第2 TV)により明らかにされた米軍の計画では、2015年第3四半期から、新型核爆弾B61-12を配備する準備作業が進んでいる。この近代化改修は「全面的耐用年数延長プログラム」の下での実施である。
B61核爆弾は航空機搭載型の小型核爆弾で1966年から配備が開始された。現在配備されているのは1977年に開発されたB61-11(一番下の図)でバンカーバスターであるが、最新型は精密な誘導装置を持ちステルス戦闘機F-35に搭載が可能なB61-12となる。2014年にB61-12をロスアラモス国立研究所、サンデイア国立研究所が未臨界核実験を行い、実証試験を完了している。威力は170kt。
独議会と国民が核配備に反対するなかで
2010年にドイツ連邦議会は多数決で、「ドイツ国会議員宜言」に元づき米軍が保有する全ての核弾頭をドイツ国内から運び出すことを求めた。米国との交渉の全権を政府に与えることを承認したのである。
当時メルケル政権は、メルケル首相を率いるキリスト教民主同盟と社会民主党との左右政党の連立で、核廃絶政策は連立政策であった。だが、メルケル首相はNATO加盟国として、核兵器を保管することは集団安保上、必要であることとし、米国との交渉がないまま、ドイツから核兵器の撤去は行われなかった。
新たに配備される20発のB61-12は、命中精度が向上した全対応型の核爆弾である。現在使われている独戦闘爆撃機「トルナード」は新型B61-12を搭載できないため、一部を残し「ユーロファイター・タイフーン」戦闘爆撃機の導入を決めている。
Photo: FAS
米国防省はロシアを安全保障上、最大の脅威と位置づけ、NATO加盟国が国防費削減を行っているにも関わらず、ヨーロッパにおけるNATOとの共同演習の拡大と米軍プレゼンスの強化を進めている。
ロシア
対立する欧米をけん制するため、ロシアは核軍備増加の姿勢を明確にしている。プーチン大統領は、2020年までに、ロシア軍が保有する最新兵器の割合を70~100%高め、大陸間弾道ミサイルの新規配備の拡大計画を明らかにしている。ロシアは欧米間の「核兵器の共有」についても、核拡散止条約に違反すると主張してきた。
NATOによれば2014年に入ってからロシア軍用機に対する迎撃回数は10月に100回を超え、昨年の3倍に増大している。国境付近の活動が活発したことでフィンランドとスエーデンもNATO加入の動きが加速され、欧州全体に緊張が高まっている。迎撃されたロシア軍機は旧式のTu-95ベアー爆撃機とMIG31戦闘機。日本海を南下しては日本の識別圏に侵入するTu-95は冷戦中は北海上空を飛行していた。
下に欧州各国の米軍基地と配備されている核兵器を示した。2014年度に米国が欧州5カ国に展開するB61は180個であるが、2015年度から配備されるB61-12がこれに変わる。
次々に勢力を伸ばすNATO側の領土拡張がロシアを苛立たせているなかで、近代化の動きは核廃棄の流れに逆行する行為である。均衡を保つために対応策を取らざるを得ない、という冷戦の産物である「核抑止力の原理」が欧州に再構築されつつある。”Back-to-the-Future”と揶揄されるこの動きは欧州における勢力均衡を崩しかねない。