SDR採用が近づく人民元

Sep. 30, 2015

Photo: apuestasdeportivas.pw


 8月にIMFは、中国人民元の特別引き出し権(SDR)追加採用についての判断を20169月末まで延期したことは、まだ記録に新しい。IMFのなかで、投票権の17%を握る米国は人民元の採用を慎重に議論する必要性を主張し、決断を大きく左右した。それから、1ヶ月後、オバマ政権は人民元のSDR追加採用を支持すると表明、人民元を重要な国際通貨であることを認めたのである。


 米国の見解の変化は、25日に行われたオバマ大統領と習近平国家主席との会談後の共同声明で明らかとなった。米国は、IMFSDR採用条件を満たせば、人民元のSDR採用を支持するとの立場にあることを明確にした。これまで、中国がSDR採用判断に必要とする通貨政策の緩和と金融改革に取り組む姿勢を支持するとの見解から大きく、中国にとって前進の一歩となった。



 IMF理事会は早くて11月に中国人民元のSDR追加採用についての判断を下すことになる。採用決定には、投票権の70%の賛成が必要となる。すでに、英国、ドイツ、フランス、イタリアなどは支持を表明している。米国が賛成に回るとなれば、これまで反対を表明してきた一部の同盟国(日本を含む)も賛成に回る可能性は高いため、SDR追加採用は確実ともいえる。



ボーイング300機の受注

 今回のオバマ・朱近平訪米協議では、東・シナ海情勢を含むアジア太平洋の地域安保の問題のほか、サイバー攻撃の問題、人権問題といった深刻な議題が話しわれた。では、米側に歩み寄った形跡はみられなかったにも関わらず、なぜ米国は中国が希望してきた人民元の SDR採用を支持したのか?


 その答えは、習近平国家主席が米国のボーイング社敷地内に今回の米国訪問を始めたところにある。米経済界に焦点を当てたシアトル訪問をワシントンの政治日程の前に持ってきたのである。


 米国経済界は政界に多大な影響力を持っているがシアトルに本社を持つ2大企業は中国と特に関係が深い。ボーイング社とビルゲイツ率いるテラパワー社である。ボーイング社は習近平の訪米の前に中国に同社のナローボデイ機のヒット作737の組み立て工場を立地する決定を行った。その理由は習近平のボーイング社訪問によって明らかとなった。


中国はボーイング737を250機、ワイドボデイ機50機を購入することになった。合計で38億ドル(4,560億円)とメデイアは報じたがこれには幾つかの疑問符がつく契約であった。一般にはエアラインの大量発注ではエアバス社とボーイングが競争して値引きがあるのに定価購入だったこと。また中国が独自に737コピーとも呼ばれるComac C919を独自に製造しようとしている競争関係にあったからだ。


しかしC919開発は製造に事実上失敗しデリバリーが遅れて国内エアラインの需要(400機)を早急に満たす必要があった。ボーイング社の工場立地は中国にとっては外国企業の中国離れに歯止めをかけることができ、C919の完成までの時間を稼ぐことができる。ボーイング社にとっては工場を労働組合のない低賃金地域に立地することは会社の方針でもあり、中国の今後20年の需要2,000機を見込んで現地組み立て、引き渡しできる工場立地でエアバス社に優位にたてるというWin-Win関係となった。



テラパワーへの資金援助

ビルゲイツがマイクロソフト社のスピンオフ達を援助して設立したテラパワー社は、中国原子力公社から資金援助を受けて新型小型原子炉の開発を加速させることを米中間の貿易交渉会議で公表した。テラパワー社と中国原子力公社は過去数年にわたって協力関係にあったが、この合意と習近平の懇談で資金援助が具体化するとみられている。新型原子炉の開発資金難を抱えるテラパワー社と地震の多い内陸部に安全で低コストの原発を整備したい中国のWin-Win関係であった。


  習近平はボーイング、マイクロソフトのほかに、スーターバックス、アップル、アマゾン、グーグル、投資家のウォーレンバフェットなどアメリカを代表する大企業30社の代表と会談している。中国市場での事業拡大を要望する経済界とのwin-win商談ともいえる。オバマ政権が中国のSDR採用の支持に回ったのは、経済界の見解を反映したものと解釈できる。2016年に中国で開催が予定されているG-20に、人民元が含まれたSDRがお披露目されるのは間違いない。