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ノーベル経済学賞受賞者のジョセフ・E・スティグリッツ教授は、「TPPは自由貿易に関する条約ではない」と述べている。TPPは「国際的に影響力を持つ企業の意向を反映した、貿易と投資のための条約である。」「アメリカが求める国際条約が自由貿易ではなく、貿易と投資活動を企業が統率することが目的であることは驚くことではない。企業関係者以外、特に国民が選んだ議員を含め、条約文案の立案時点から関わっていないと、このような事になる。」と指摘している。
大企業が政府を動かし、交渉は未公開、交渉中の条約文案は機密であった。歴史的に世界最大規模の貿易と投資の条約でありながら、関係者以外は条約文案の内容を見ることができず、議員や国民も問題点を議論、反対することもできなかった。「自由貿易圏」ができると言われているが、実体は国際的に影響力をもつ企業が、加盟国の国家主権を脅かすものである。
ISDS
3月にWiki Leaksは条約の投資に関する章の第2条21節を入手、そのなかで、投資家対国家間の紛争解決(Investor State Dispute Settlement: ISDS)制度の役割と目的の資料を公開した。資料にはISDSは国際法廷や国家主権より上位に位置され、企業はISDSを通して、不利益を被った際、他社や他政府を提訴して、他国の法律、制度、標準などを無効または賠償金を請求することができると書かれている。
紛争に関わる当事者は、それぞれ仲裁人を通じて紛争を解決する。75日以内に法廷が開催されなければ、ISDSの事務総長が直接仲裁人を任命して、法廷の開催を要求することができる。
ISDSは世界銀行グループに属し、ワーシントンD.C.にある世界銀行の本部に設置され、運営資金を受けることになる。世界銀行の総裁が会長を兼任することで、世界銀行が貿易圏に関わるすべての紛争の解決に関わることになる。ISDSは国際法や国家主権より上位に位置しているため、国は自国の国民の健康や安全、経済的保証や環境安全を保証できなくなる可能性さえある。
TTIP
EU諸国と米国が進めている環大西洋貿易投資パートナーシップ(Trans Atlantic Trade and Investment Partnership: TTIP)の条約も同様に、ISDSを通じて大企業は国家を提訴することが可能となる。TTIPが合意を達せば、早速遺伝子組み換え種子を開発している米モンサント社はEUの遺伝子組み換え表示や商品に関する国の規制を壊すために提訴に動くと予想される。
現在、世界最大のタバコメーカーであるフィリップモリスがオーストラリアとウルグアイ政府に対して、タバコ箱にある警告表示による不利益を被ったことで提訴している。TTP とTTIPが実施されれば、提訴する国が増えることは間違いと思われる。
スティグリッツ教授はTTPについてこんな話をしている。
「アスベストの有害な影響が発覚した時、ISDS制度が執行されていたと想像してみてほしい。政府がメーカーに工場を閉鎖して、被害者へ賠償するように命じるのではなく、政府が国民が被害を受けないためにメーカーにお金を払わないといけなくなる。納税者は、アスベストによる医療費を負担したうえ、メーカーの利益損失も補填することになる。」