Photo: The Guardian
ドナルド・トランプの「失業率は20%ではないか」の最近の発言は、米国労働省が発表した5.1%より現実味のある数字ではないかと思われる。メディアは失業率と前月比雇用者数の増減に注目を置くが、失業率の数字は、統計上に問題があり、米国経済の実体を正確に反映していない。米国が抱える深刻な労働問題が見えてこないのである。
トランプが認めた雇用統計の問題点
米大統領候補のドナルド・トランプが税制改革の公約を発表した(9月28日、トランプターワーにて)後の記者会見で、所得格差に関して、次のように答えた。
「所得格差の対策として、私は多くの雇用を創出する。今現在、失業率は嘘の数字で、5.4%, 5.3%, 5.6%と毎月数字が変わる。この数字はインチキな数字である。なぜかと言えば、人々が仕事を求めて探して、探して、また探しても無ければ、仕事を探すのを諦める。そうして、数字に含まれなくなるため、正確な状況は数字に反映されていない。」
「私は失業率が24%、または42%という数字が出ていることを知っている。」
「42%, あり得るかも知れない。」
「なぜなら、職を求めて動き回って探して、探して、一生懸命探して、働きたくて、家族を養うために、それでも仕事が見つからなくて、頭をかしげて」
「なぜ仕事が見つからないのか?」
「統計上の理由で、このような人たちは失業者として数えないのだ。」
「雇用統計が出るたびに、数字を見るが、失業率は5.3%と発表されている。そんな数字は、この国でもっともふざけた冗談である。」
「この数字は明らかに嘘である。」
「失業率は恐らく20%ではないかと思う。」
「私が言いたいのは、優秀なエコノミストのなかで、失業率が30%, 32%と言う人もいることだ。そのうち、最も高い数字は42%であった。」
9月の非農業部門の雇用統計
米国経済は景気交代に向かっていないとの報道のなか、9月の非農業部門雇用統計(米国労働省)が2日に発表された。失業率5.1%と雇用者数の伸びは、市場予想(20万人増)より低い前月比14万2000人であった。その内訳をみれば、16.9%の雇用は公務員職、83.1%は民間職の雇用、うち78%は低賃金/最低時給の主にパートタイム職である。製造業においては、9,000人の雇用が喪失され、安定した、高い給料の製造業職が年々減少している。製造業の空洞化による深刻な影響は引き続き続いている。
労働者参加率は1977年以来の38年ぶりの低い62.4%となり、9,461万人が労働市場に参加していないことになる。1977年の数字と比較する場合、注意しなくてはならないことは、1970年代は世帯主の所得は高く、多くのの女性は専業主婦であったことで、今のような共稼ぎが当たり前の時代ではなったことである。
Source: Bureau of Labor
9月だけで、57万9000人が労働市場から離脱したのである。なかでも、25-54歳の労働者参加率は最も低い80.6%である。
Source: Bureau of Labor
8月と7月の雇用統計は2度下降修正され、8月は173,000人から136,000人に、7月は245,000人から223,000人へと、それぞれ21.3%と8.9%減少した。3ヶ月の平均は、167,000人となる。明らかに雇用状況が悪化していることがわかる。
失業者の定義
失業者の定義は1994年に変更されてから、求職活動を続けているが、失業手当の支給が終了した人、仕事がないため求職活動を諦めた人、なんらかの個人的理由で一時的に求人活動をやめている人、経済的理由からパートタイム職についた人(週1回の数時間でも含まれる)、求職活動をしているが、経済的理由からなんらかの社会保証を受けている人などは労働力に含まれていないのである。これは、失業者の数を少なくみせるための統計的トリックで、トランプ氏が指摘する嘘の失業率の実体である。
雇用統計の不都合な真実
米国の労働市場は、低賃金パートタイム職が主となる雇用形態の社会へと変化している。労働者参加率の減少は、失業危機で、中流階級の崩壊とアメリカ社会の貧困化を加速する要因となっている。これはアメリカ大国の内側からの崩壊ともいえる。