Photo: cplberry
神岡鉱山といえばニュートリノ観測のためにつくられたカミオカンデ(現在はカムランド)(注1)、スーパーカミオカンデが有名である。カミオカンデは3,000トンの超純水を蓄え周囲に1,000本の光電子増倍管が並べられた。スーパーカミオカンデは50,000トンの超純水タンクと11,200本の光電子増倍管を持ち、遠く離れたつくば市のKEKや東海のJPARCをニュートリノ発生させて連携することでニュートリノの性質を調べている。
(注1)Kamioka Nucleon Decay Experimentの略名。さらにスーパーカミオカンデの20倍の規模のハイパーカミオカンデの計画も検討されている。2002年にニュートリノの観測により小柴教授がノーベル物理学賞を受賞。
Photo: vatlythienvan.com
カミオカの名前は世界的に知れ渡ったが、再びカミオカに世界最先端の研究施設が生まれようとしている。それがKAGRA(注2)と呼ばれる大型重力波望遠鏡である。
(注2)Large-scale Cryogenic Gravitational wave Telescope、LCGTの公募で決まった愛称。
アインシュタインの相対性理論で予想した重力波は時空の歪みが伝播する波動現象だが、その検証は困難を極めた。空間の歪みを検出するには感度の良いレーザー干渉計(注3)が使われる。現在稼働している世界先端の感度の重力波望遠鏡はアメリカカリフォルニア大とMITチーム(LIGO)とイタリア、フランスチーム(VIRGO)がある。それぞれレーザー干渉計の基線腸が4km、3kmである。
これらの施設はそれぞれアップグレード計画があるが、KAGRAは3kmでその感度はアップグレード後のLIGO、VIRGOに並ぶことになる。
Photo: iopscience
(注3)レーザー干渉計(下図)では光束を2つに分割し、一方の波面(光路)に対して他方の波面(光路)の距離差を調べる。基準となる波面(参照光)と被検波面の光路差が波長の整数倍であれば干渉した光は明るくなり、光路差が波長の整数倍から波長の半分だけずれていれば干渉光は暗くなる。場所により光路差が一定でない場合には、明暗の干渉縞が観察されることになる。下図は最も基本的な光学系(マイケルソン干渉計)でハーフミラーで二つの方向にビームを切り分けて反射光の干渉を同一点で観測する。
Photo: SPIE
LIGO、VIRGOなどの施設は連携して重力波観測国際共同研究を重力波観測ネットワークにより行う。素粒子実験や核融合の分野でも国際協力がさかんであるが、装置が大型化し複雑になり、これは一国、一研究所では建設ができないほど巨額の資金を要するようになったことがあるが、そのほかに最高性能の施設を建設する際に検出器などでは国際間の協力が必要なことがある。
重力波観測ネットワークに参加している主要研究施設は米国は2箇所(ワシントン州、ルイジアナ州)のLIGO、ドイツ、ハノーバーのGE0600-HF、フランス・イタリアのVIRGO、オーストラリアのAIGO(計画中)
グローバリゼーションは経済や文化の世界だけではなく研究の世界にも及んでいる、ということのようだ。KAGRAではノイズの少なさで勝負するために、神岡鉱山の地下に極低温の検出系を設置することで、装置の寸法を上回るQuietな測定装置を目指している。重力波望遠鏡によって宇宙の彼方の時空の歪みを世界で最初に検出することを目指している。