Photo: W7-X
核融合装置といえばJT-60とITERで代表されるトカマク方式かLorence Livermore研究所や大阪大学のレーザー圧縮方式かが有名である。多くの研究所が核融合研究に終止符を打つ一方で、核融合研究を独自に継続しているダークホースも存在する。マックスプランク研究所のWendelstein 7-Xがそのひとつである。
マックスプランク研究所は強磁場発生装置など極端環境の実験装置の開発を行ってきたがWendelstein 7-X(W7-X)は中でも、最も大規模な研究施設のひとつである。ITERは国際共同研究組織だがドイツはEUとしての参画であり、日本やアメリカ、ロシアのような単独国としての参加ではない。
Wendelstein 7-Xとは
W7-Xはマックスプランクプラズマ物理研究所が2014年に完成したステラレータ型核融合炉である。2015年に最初のプラズマが導入される予定であるW7-XをITER建設が進められる中で独自に開発する意味は何か。それはW7-Xのユニークな設計にある。完成すればW7-Xは世界最大のステラレータ型プラズマ閉じ込め装置となる。トカマク方式はプラズマ温度を高くできるが外壁とプラズマの相互作用が様々な問題(例えば磁石のクエンチ時の挙動)を引き起こす。ステラレータ型はプラズマが外壁と接しないためトカマク特有の(安全性に関わる)問題が解決される。
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ステラレータの有利な点
プラズマ閉じ込めにはヘリカル型、トカマク型、レーザー圧縮などがある。このうちヘリカル型とトカマク型は磁場閉じ込めでヘリカル型はドーナッツ状の容器の外側に磁石をカゴのように配置し、磁力の網でプラズマを閉じ込める方式。大型ヘリカル装置は超伝導コイルを用いた核融合研究所のLHDが世界最大である。
JT-60やITERがトカマク型を採用した理由は対称性が良いために大型容器も製作が容易でプラズマの到達温度が高いためであるが、一方で持続時間が短いことが実用炉に適していない。
ステラレータ型というのは磁場閉じ込めのコイル配置をきめ細かくしたものでマックスプランク研究所のW7-Xの狙いは実用炉にこの型が適しているかを評価する研究にある。つまりドイツは到達温度の点で有利であるとITER(トカマク)とは別に、独自にヘリカル型でいければ核融合炉を開発しようとしている。W7-Xでは50個の非平面超伝導マグネットが用いられる。開発にかかった費用は約10億EU(1,600億円)である。ちなみにITERは160億EUだがドイツはEU加盟国として相応の分担金を準備しなくてはならない点は、日本同様である。
W7-Xは核融合のダークホースとなるか
マックスプランク研究所は1988年に旧型W7-ASを開発したがW7-Xはその経験を生かして改良されている。研究チームによれば新型のステラレータ炉では同じサイズのトカマク型と同等のプラズマ温度が達成できるとしている。プラズマ持続時間30分を狙うW7-Xは現実的な核融合炉に必要な長時間出力の点で一歩有利に立つ。
世界的な潮流はJT-60の発展ともいえるITERを中心に動いているが、独自技術を大切にして頑固ともいえる研究態度をつらぬくドイツ。原爆製造には失敗したが核融合実用炉の先端に立つかもしれない。