ビルゲイツの原子炉開発に中国から資金

Sep. 29, 2015

Photo: Terapower


ビルゲイツは2006年にマイクロソフト社のスピンオフ達のテラパワー社の起業を援助した。このほど中国原子力公社から資金援助を受けて開発を進めてきた新型小型原子炉の開発を加速させることを米中間の貿易交渉会議において発表した。


テラパワー社の進める小型原発は2050年に倍増するとされるエネルギー需要に対応するためのもの。ビルゲイツによれば小型原発は低コストクリーンエネルギーの切り札であるという。確か温室効果ガスの排出量が化石燃料の火力よりは少ないものの、核汚染のリスクと核燃料サイクルをどうするのか、先進国の原発離れと逆行していることも確かだ。


テラパワー社と中国原子力公社は数年にわたって協力関係にあったが、ビルゲイツによれば今回の合意は画期的なものであるというが、貿易交渉会議で合意された多くの協力案件同様に、具体的な支援内容は明らかにされていない。


習近平が米国訪問の際にシアトルを最初の訪問地に選んだ理由はボーイング社の本社があることだけでなく、テラパワー社(ビルゲイツ)側との最終交渉の予定があったからだ。テラパワー社の原子炉制御のソフト開発能力は高いが、原子炉開発には多くの原子炉工学技術者が必要であることから、韓国企業連合および東芝と研究協力を進めてきた。


またワシントン大学と中国の大学がスマートグリッド、天然ガス改変技術、低分子量炭化水素の輸送法について協力して大学院学生交流プログラムを進めることに合意した。今回の習近平の訪米貿易ツアーは2国間のパートナーシッップを強化し米国企業に資金援助したり、米国製品を購入する契約まで国家元首と大企業経営者が直接セールス面談を行うことになった。


これまで国家元首が経営陣を引き連れてセールスツアーを行うことは多々あったが、直接セールス交渉の機会をつくったことは企業のための国家という実態を鮮明に印象付けた。




ビルゲイツ型原子炉とは

 現在の商用原発の主流は軽水炉で、低濃縮ウランを核燃料に用いることと冷却水である軽水すなわち通常の水を減速材に用い、高速中性子を核反応に適した低速中性子に転換する原理に基づいたもの。商用原発に適した理由は主に電力コスト、低濃縮ウランを使用するため核廃棄物が兵器製造に適さないという核拡散安全保障面である。

 

ビルゲイツの推進する次世代原発は高速炉と呼ばれる。高速炉では高速中性子で核分裂反応を起こすもので軽水炉では廃棄物に含まれるウラン238を用いる。つまり処理に困る放射性廃棄物を、再利用して燃料が燃え尽きるまで容器内に閉じ込めて、熱出力を取り出す、というものである。

 

核のゴミを燃料にするものなので大出力原発には適しないが、カプセルに封入して使い切るまでメンテ不要の原子力バッテリーのような小型高速炉が実用化できれば新興国のように高度な技術者を育成する必要もなく、エネルギー需要を低コストかつ安全にまかなう、ことが原理的には可能だ。

 

しかし「もんじゅ」で遭遇したようなナトリウムを冷却材に用いるリスクなど技術的に莫大な研究開発が必要で、テラパワー社は資金援助を中国に託した。しかしテラパワー社は韓国企業連合と東芝と協力関係にある。特に東芝の「4S原子炉」は技術的にテラパワー社の狙う小型原発に近い。中国との関係強化で他者との連携にも影響を与えることは必至だ。はっきりしていることは原子炉開発は資金と時間がかかることを認識しなければならない。鬼城のように途中で投げ出すことはできない。今後のテラパワー社の開発が加速するのか注目される。