Photo: Davis Exporters
原子炉が老朽化すると廃炉となるが、問題はそこから始まる。電力会社は原発廃炉費用を捻出する余裕がないからだ。北カリフォルニアのフンボルト湾は自然環境が保存された風光明媚な湾で、休日にカヤックを楽しむ人の憩いの場である。ここに設置された原発は1976年に停止したが廃炉の費用は約530億円だが、誰がその費用を払うのかはっきりしない。
所有者である電力会社は370億円の資金不足は電力料金の上乗せで電力使用者負担となる。米国の117箇所の原発のうち82箇所は廃炉費用の資金がない。原発廃炉費用は1兆2,000億円かかる試算だが、そのうちの5,160億円は資金がない。
Source: IAEA
老朽化する米国原発
上の図のように米国の原子炉数は世界一位の117基で、フランス、日本と続く。際立つのは米国の半数以上の原子炉が30年以上であること。原子炉の寿命は40年とされてきたが、そうなれば半数以上の廃炉を実行しなければならない。そこで寿命を50年とする方針だが、老朽化による事故や放射性物質の汚染が深刻になる。
住民の反対によって新規原発建設が棚上げされてきたが、オバマ政権になって建設が認可されつつあるが、老朽化した原発を置き換えることはできない。
廃炉費用
廃炉作業にかかる時間と費用は1基あたり60年で144億円かかるが、工期が長期に渡るため将来の経費負担が保証されているわけではない。原発の電力料金は再生可能エネルギーとシェールガスのおかげで値下がりした天然ガス火力発電との競争で利益を上げられない。
また廃炉費用の見積もりが過少であることは原子力規制委員会も認めており、最終的な廃炉費用の不足分は約5,000億円となるが、それでも使用済み核燃料の廃棄と環境保全に要する費用は含まれていない。しかし政府は中間貯蔵施設の整備をしないため、電力会社が放射性廃棄物を数十年にわたって貯蔵しなければならない。
電力会社は廃炉費用捻出のために利回りの良い運用に資金を回すことになり、株式暴落の影響を受けやすい体質になることが懸念される。原子力規制委員会では2%の運用利益を認めているが、20箇所の原発では5.3%を見込むが、運用の監視はできない。電力会社は金融危機に際して適切な対処もできないので資産運用に大きなリスクを背負う。
電力コストの比較において原子力のコストに廃炉と核燃料廃棄、環境保全は含めていないが、これらを含めれば選択肢に残るかは疑問である。発展途上国が成長期に必要なエネルギー源として安易に飛びつきがちだが、後世への負の遺産となる廃炉リスクを背負うことになる。
廃炉費用は40年間の電力料金に最初から含めるべきで、積み立ては免税措置が望ましい。また、運用リスクは電力会社の責任となる。