イスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」を撲滅するためには、「手段も場所も選ばない」と述べたオバマ大統領だが、果たして中東で何を達成しようとしているのが明確ではない。
まず、軍事作戦にはいくつかの問題点がある.オバマ大統領は議会の承認を得ていないこと。憲法では、攻撃を受けた場合と戦争の脅威がある場合に限り、アメリカ合衆国大統領は単独に相手国に軍事攻撃ができる。イラク、シリア、「イスラム国」はアメリカを攻撃していないため、議会の承認が必要となる。9・11の時は、アメリカがテロ組織に攻撃された緊急事態として、ブッシュ大統領に軍事攻撃を遂行する権限があった。今回は議会の承認がなければ、憲法に従った手順を踏んでいないことから、憲法違反となる。
第2点は、イラク政府の承認を得ても、「イスラム国」テロリストを排除するため、シリア政府の承認がなければ、シリアでの軍事攻撃はできない。シリアが独立国家である限り、国際法では、シリア領土内の軍事攻撃は侵略とみなされる。そうなると、軍事攻撃前に当然シリア政府に協力を求める必要がでてくる。だが、去年からシリアのアサド政権の政権交代を主張してきたアメリカは、協力を求める事はできない。さらにシリアで軍事攻撃が遂行されれば、背後にいるイラン、ロシアと中国は黙ってはいないであろう。
第3点は、オバマ政権は幅広い国に協力を呼びかけている。しかし、同盟国として軍事協力が確実視されたイギリスとドイツは、いち早く「イスラム国」空爆作戦には参加をしないことを表明した。トルコもアメリカ軍の航空基地使用を拒否した。トルコの空爆作戦への協力もない。NATO諸国の共同作戦が実行できない状況となっている。中東諸国の協力を得るのも難しい状況で、アメリカ単独でも軍事作戦を遂行すると言われているが、問題の解決より、問題を複雑化、収拾のつかない紛争を引き起こす可能性の方が高い。
第4点は、「イスラム国」の資金源を止めることに、どれだけ中東諸国から協力が得られるかが疑問である。サウジアラビア、カタール、クウェート、トルコなどのスンニ派からの資金提供を止めることは困難と思われる。
9・11から13年たっても、これまでの対テロ政策は結果を出したとは言えない。13年前と比べ、中東での紛争は拡大、「イスラム国」勢力の拡大でより地域が不安定になった。アフガン、レバノン、イラク、リビヤに軍事介入して、アメリカは何を果たしたのか、そうして今後何を果たそうとしているのかを考える必要がある。アメリカン大学ベイルート分校のHilal Khashan教授がいうように「アメリカは戦争を始めることは得意だが、戦争を終わらせる方法を知らない」のである。