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ニューヨークを訪れた観光客が真っ先に目指すのは5番街である。歩いているのは観光客ばかりだが、ひときわ目立つ高層ビル、トランプタワーはそうした人々の人気の的である。
ドナルド・トランプはクイーンズ出身、父親はアメリカに移住してきたドイツ系の不動産会社で、不動産業のノウハウを勉強して1980年代にオフイスビル開発やホテル、カジノ経営などでその才能を発揮した。アメリカンドリームの象徴のようなトランプは5番街の象徴となった高級アパートとモールの複合施設トランプタワーを建設した。
2007年のサブプライムショックで資産の一部を失うも、持ち前の才覚で復活した。トランプ家の資本力と知名度を背景にしてこれまでも大統領選への出馬に興味を示していたが、2016年の大統領選に共和党から出馬することを表明した。
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破天荒なトランプの行動や発言にアメリカの知識人達は反発する人が多いが、興味本位なメデイアの報道もあって失われたアメリカンドリームへのノスタルジアが庶民の人気に拍車をかけている。また一方では不動産王としての成功の裏にあった大胆な発想と緻密な計算、そして粘り強い交渉力を評価する人も多い。事実、ビジネスで挫折するたびに不屈の精神で復活するタフさにアメリカンドリームを重ねるのも納得できる。
そのトランプ氏がいよいよ2015年6月に、トランプタワーで共和党から2016年の大統領選に出馬することを宣言した。この会見でトランプ氏は「アメリカンドリームは死んだ」と言い放ったが、それは「自分こそが最後のアメリカンドリームで、アメリカを復活させるのは自分しかない」という意味である。
過去20年にわたり大統領選に興味を示してきた彼が、今回は自己の資産(87億ドル、約1兆700億円)で予備選に臨む決意を表したことが波紋を呼んでいる。10名以上の共和党候補者の中で暴言や奇抜な政権構想が災いしてトランプ氏の当初の人気は低かった。
しかし8月のウオールストリートジャーナルとNBCの世論調査でトップに躍り出た。支持率19%を集めたのはトランプ氏、第2位はスコット・ウォーカー・ウィスコンシン州知事の15%、第3位はジェブ・ブッシュ元フロリダ州知事の14%だった。
トランプ氏の最近の躍進の理由を探ってみた。トランプ氏の主張の骨子は「強いアメリカ」で特に、移民問題を真っ向から取り上げオバマ路線と一線を画してメキシコからの移民の制限を主張している。移民蔑視ととられたものの、あいつぐ移民の制限の緩和政策への警告には根拠がある。中国人とメキシコ人たちに奪われた職を取り戻せ、という過激な発言は移民政策を中心課題にすえたトランプ氏の思惑通りの効果であった。
特に当選すれば(移民政策や対中国経済政策によって)、個人の「アメリカンドリーム」を復活させ、「強いアメリカ」を実現する、という公約に現在のアメリカの抱える問題が凝縮されている、とみる人たちにとっては魅力的なアピールだ。クイーンズの星、トランプ氏は果たして野望を遂げアメリカンドリームとなるのか、彼の今後の動きに注意を払う必要がある。