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中国の人民元は1.9% (11日)の切り下げを実施した。中国人民銀行は1回限りの「一時的措置」、「為替レートの調整」と発表したが、翌日人民元は1.62% (12日)下げ、 2日間で実に3.5%の切り下げとなった。しかし、元安は止まらず、13日にはさらに1.1%下げ、3日連続で4.6%の切り下げとなり、2011年7月の水準、1ドル6.4010人民元まで元安が進んだ。
中国はこれまで、経済成長を維持するための金利の切り下げや景気刺激策を実施してきた。その効果がなくなれば当然、中国経済の減速が深刻になるに従って、輸出競争力を高めて輸出の拡大を図る手段として人民元の切り下げを実施することは予想できた。だが、10%以下の元安は輸出を大幅に改善するほどの影響力はない。
人民元安を容認した中国人民銀行
今回の人民元切り下げについて、中国人民銀行は「人民元の実質レートは各種通貨に対して比較的強く、市場の期待とかけ離れている」とのコメントを出している。この発言の背景には、ドルペッグ制で人民元が米国ドルと連動していることがある。
米ドルの動きを世界の主要6通貨(ユーロ、日本円、英ポンド、カナダドル、スウェーデン・クロナ、スイスフラン)と比較する米ドル指数は2011年から上昇している。先進国通貨だけでなく、米国の主要交易国の通貨を含む貿易加重ドル指数(中国元、メキシコペソ、マレーシア・リンギッドなどの通貨を含む)も上昇、米ドル高が進んでいることがわかる。
貿易加重ドル指数でみると、米ドルは2011年7月から2015年7月の間に32.7%、2014 年7月から20%ドル高が進んでいる。結果的にドルに連動している人民元も上昇したのである。中国経済が減少しているなか、人民元高が進んで、今後も米ドル高傾向が続くとしたら、さらなる人民元高が進むと思われた。
IMF発表の影響はあるのか
8月5日にIMFは、人民元をSDRの構成通貨に採用することを2016年9月まで先送りすることを発表した。その際、IMFは人民元の為替レートが中国政府によって上限幅が設定(管理フロート制)されていることを問題視した。より市場の変動を反映した仕組みになることをSDR採用の条件とした。
人民元対ドルレートの「基準値」は、外国為替市場で取引を行う数十の銀行がその日に妥当と思われる値を中国政府に提示、中国人民銀行が「基準値」を毎朝設定した。ドルに対する為替レートの1日の変動幅を基準値から上下2%以内に制限している。この範囲を超えないようドル買い、ドル売りと市場介入を行ってきた。
今回はこの基準値設定法を変え、前日の市場の終値を基準値とする、より市場の動向を反映する方法に変更したと中国人民銀行は主張している。IMFは中国人民銀行の行動を歓迎、為替レートの決定に市場がより大きな役割を果たす可能性があると指摘している。
人民元安の市場圧力
11日の中国人民銀行による切り下げは、8日に発表された予想以上の落ち込みとなった7月輸出の8.3減、4ヶ月ぶりの大幅な減少が、さらなる元安の市場圧力となった可能性が高い。中国人民銀行は3日間の4.6%元安を容認したことになる。
人民元の切り下げが続くとしたら
これまで、中国に市場の動向を反映した、変動相場制を導入することを米国とIMFは推進してきた。そのため、さらなる人民元の切り下げがあるとしたら、米国やIMFは批判が難しい立場に置かれる。
米国対中貿易赤字は拡大を続けており、6月には310億ドルを超えた。人民元の切り下げにより、貿易赤字がさらに拡大する可能性はあり、中国政府の人民元政策に批判を呼び、政治的な問題に発展していく可能性がある。
人民元の切り下げによって、さらなる通貨戦争に発展する可能性もある。すでに、ロシア、インド、タイ、インドネシア、ベトナムなど各国は自国通貨の切り下げを検討している。通貨の切り下げは、世界貿易をめぐるマーケットシェア獲得の争いを反映するものである。各国は輸出の拡大を果たそうとするが、世界経済の低迷で全体のパイは縮小、そのなかでマーケットシェアを争うことになるので、より競争力を上げるために自国通貨の切り下げを行う。1997年にアジア各国の急激な通貨下落で起きたアジア通貨危機のような危機が再び起きないとは言えない。