押し寄せるシリア難民で混乱する欧州

Sep. 1, 2015


 

シリア内戦が続くことにより難民が急増しているが、シリア内戦は欧州全体に難民を送り込むことで欧州の弱体化が進んでいる。難民の多くはヨーロッパに渡り雇用の機会が多く難民として受け入れられる環境(ドイツ)を目指す。アフリカからの難民は地中海を越えてギリシャ、イタリアの海岸に上陸し難民キャンプで難民申請をして、ドイツに向かう。

 

イタリア北部とドイツの間の交通手段は鉄道となる。831日にオーストリアの首都ウイーンに1,500人の難民が列車でハンガリーから押し寄せた。全員がドイツを目指すことと警察が規制できない数だったので、ウイーン警察は追い返すこともできなかった。

 

 

一方、ハンガリーの首都ブダペストの東駅はドイツに向かう難民が押し寄せて駅を占拠している。難民たちは駅を難民キャンプのように占拠して静かだった東欧の駅に混乱が起きている。彼らにはNGO団体から水と食べ物の差し入れがあるが、長期滞在をしたくて留まっているのではない。単に支給された切符を使い適切な路線を乗り継いでドイツに行く方法がわからないのだ。

 

東欧諸国の警察官は警察国家の名残で屈強な男たちで通常であれば、駅にたむろして騒ぐ若者たちならあっという間に連行されてしまう。今回の移民の場合はその数と道義的な躊躇、そして何より不法移民であることを証明できないため、ハンガリー当局はついに不法移民に関するEUの規則を曲げて、駅の占拠を許すことになった。

 

2015年に入ってハンガリーに入国し拘束された難民は14万人を越えている。シリアの悲惨な内戦を考えれば安全な土地を目指して故郷を捨てる難民たちの気持ちは理解できる。しかし今後も増大し続ける難民を受け入れ続ければ、社会的不安が増大しやがては全欧州経済が共倒れになる危険性が高い。すでにドイツの難民キャンプでは放火などの難民に反対する住民の排斥運動が起こっている。

 


Photo: Provence & beyond

 

ブダペストからドイツに列車で入るには上の路線図のようにウイーンを経てプラハに入り、ベルリンを目指すのが一般的である。観光でユーロパスを使った人はわかるだろうが、実際の路線は複雑だし、国境を通過する交通機関なのでこれだけ大量の越境者を扱うとなると、どの国でも対処に苦慮することは必至だ。現実に狭い車内で車掌が旅券を確認するのは不可能だし、まず旅券を持たない難民の対応を経験していない。難民報道でメデイアが伝えないこと、それは難民の受け入れでEUの足並みがそろわず、その対応で経済的損失や社会不安が増大することで確実にEUが弱体化している事実である。

 

 

Photo: RT Question More


2011年の「アラブの春」をきっかえとしてアサド政権と反政府分子の紛争が長期化した。その後、クルド人武装勢力、アル=ヌスラ戦線、ISが入り乱れてシリア内戦は泥沼化している。この間、度重なる空爆と砲撃により建物は破壊しつくされた。


下のGoPro動画では破壊された建物に隠れて狙撃してくる反政府軍兵士を遠方からT72125mm砲で砲撃している様子がよくわかる。政府軍のロシア製T72戦車は、近距離専用の特殊な防御を追加し歩兵と綿密な共同作戦を立て市街地での戦車戦(注1)を有利にした。


(注1)市街地での戦車部隊が恐れるのは対戦車ロケットによる攻撃だが、シリア政府軍は狭い路地を挟んでの戦車戦を熟知していると思われる。狙撃手は目視で確認できない場合が多いが、シリア軍のT72は見当をつけて手当たり次第に砲撃する。そのため多くの建物が破壊されるが狙撃手も倒すことができる。チェチェンでロシア軍戦車部隊は建物に隠れた対戦車部隊に壊滅的打撃を被った。シリア軍の戦車部隊はそのことをよくわかっているようだ。歩兵(制服を着ていない場合があるので民間人と区別ができない)との綿密な連携作戦で狙撃手が潜んでいそうな建物に集中攻撃を加えている。


内戦で生命の危険に脅かされた市民は国に見切りをつけた。2013年で100万人が国外に逃れたといわれる。難民の問題を考えるときに内戦をつくりだした大国の責任は忘れられがちだが、難民をつくりだし戦争を支援した大国の責任は重い。