Photo: PaulFlight (Flicker)
車の世界にはマイナーチェンジとフルモデルチェンジがある。ひとたび成功すると後者は技術者を悩ませることになる。ヒットした製品を大々的に変えていくのか多くを受け継いで革新的になるべくみせず既得ファン層の失望を避けるのか、である。マイナーチェンジは主にフェイスアップと細かい改良のみで、販売が好調なら大規模な変更はない。
ジェット旅客機の世界でも同じだが新型機を開発する目的は、乗客数の隙間を埋めるために新機種の開発が必要になった場合と老朽化した機種を置き換えるフルモデルチェンジのいずれかである。ボーイング社の777シリーズは現在、長距離路線で老朽化した747-400を置き換えつつある。当初はヒットした767の後継機として(767-X)として計画されたが、エアバス社の当時の新鋭機A340には対抗できず、フルモデルチェンジを要求したエアライン各社の要求に応えることとなった。
Boing777-9xとは
777はエアライン各社のマーケテイングで生み出された機種で、航続距離と胴体の長さ(乗客数)が異なる777ファミリーを生み出すことになった理由もエアライン各社の要求にきめ細かくこたえるためであった。A340のフライバイワイアなどの斬新的な技術を取り入れて、エアライン各社のマーケテイングによって「売筋」を目指したのが777といえる。
この時点ですでに航空機メーカーの先導する開発からマーケテイング重視のユーザー先導型に民間航空機のビジネスモデルが変化を遂げていた。大量輸送時代では空席をなくして飛び続けることが要求されるため、ニーズにあったキャパシテイの提供が絶対条件であったのだ。ルフトハンザは大型機を長距離路線に採用する傾向にあるが、2025年には35-400人クラスは747-8と777-9Xで対応する。
Photo: CARRY ON
777-9Xの特徴
777-300ERはJALがロンチカスタマーとなったが、ANAが続き他のエアラインも747-400の後継機として発注が500機を超えた「売筋」となった。最近発注が決まった政府専用機も777-300ERである。777-300ERの航続距離は14,250kmと747-400と遜色ない。
ボーイング社は787で色々なことを学習して777-9Xを開発中であるが、最も大きな変更点は787で採用した鳥の羽に似た主翼の形状である。787に乗って主翼を眺めると複雑な曲線に気がつくであろう。この曲線は鳥(猛禽類)が高速で飛行するときの羽にヒントを得ている。
新幹線で使われている長い先端部分が鳥の嘴からヒントを得ていることはよく知られている。777-9Xは複合材料を多用する新設計でマイナーチェンジの類ではなくフルモデルチェンジに相当する。市場の競争機種は明らかにエアバス社のA350WWB-900/1000となる。
なおエンジンについてはこれまでGE90がメインであるものの、一部のエアラインに対してロールスロイスの傑作、トレントとも選択できたが777-9XではGE9X専用となる。このことはボーイング社の機種(特に777ファミリー)を採用してきたエアラインへの販売を念頭に置いた世界戦略をとった、と解釈できる。
旅客機のセグメンテーション
777-9Xはボーイング社の顧客にメリットがある販売戦略となった。ジェット旅客機販売を独占してきたボーイング社が、守りに入った象徴と捉えることができる。世界はいまエアバス社とボーイング社の2強時代。お互いを潰し合う体力も野望もなくなったといえるだろう。
顧客の要望に応えるエアライン重視の新型機開発競争に入ったことは、「メーカー主導」から「顧客重視」へのパラダイムシフトを意味する。一方でメーカー主導のメリットであった製品の「斬新さ」がリスク管理で薄れてしまう側面もある。下に示すセグメントの比較ではエアバス社のA350とA380の間にギャップが大きいことがわかる。
A380まで大型機を投入するエアラインは中東系とルフトハンザなど一部に限られる。そのほかのエアラインは大型機は747-400の後継機である747-8までとしたため、A380の受注数が伸び悩むこととなった。エアラインの長距離線戦略の違いが鮮明になった。このままいけばA380の生産は打ち切られ747-8が再び世界の長距離路線を独占するかもしれない。その場合にエアバス社がA380をダウンサイズ(胴体形状)してくるのか興味深い。いずれにしてもエアラインと顧客にとっても1機種1メーカーの独占は避けたいところだ。
A380に空席をつくりたくないから敬遠したいエアラインの気持ちがわからなくはなが、747-8を上回る安定感は一度乗ってしまうとわかるが、他の機種では得られないものがある。かといって中東系エアラインに乗りたくもない。スカイマークのA380を生かすことができればよかった。
Photo: LEEHAM News and Comments
富裕層だけが航空券を購入できた時代は終焉を迎え大量輸送時代になったことを実感する。車の世界ではセグメントが拡大され、ほぼ全ての顧客の需要に応えるきめ細かさが生産台数に直結する。しかし空港規模や航空協定の限界が近いため、このまま大量輸送の伸びが継続していくとどこかで大きな変換点が予想できる。そのパラダイムシフトは何なのか、興味は尽きない。