Photo: 1to1 media
筆者が”Information Explosion”という言葉を知ったのは15年ほど前のこと。記憶ではオーストラリアの大学教授が当時、インターネットでアクセスできる文献の90%は1985年以降のもので、それ以降の情報氾濫を爆発という言葉で表現していたように思う。
情報爆発は情報記録容量と送受信能力の両面での性能の著しい向上によりその後も指数関数的な発展を遂げたが、ビッグデータ時代を迎えてこれまでの人間対人間の情報交換(H2H)に加えて、I2Tと呼ばれるインターネットへの「モノ」を接続することによる情報爆発が進んでいる。
ここでH2Hでは端末や回線速度が改善しても結局は人間同士の情報処理能力によって、意味のある情報量は制限されることになるため、情報量の増大に歯止めがかかる点である。例えば4K TVから8K TVへ液晶解像度が上がっても人間の網膜の限界を超えても画像が鮮明になるわけではないし、人間が滑らかな動きとしてとらえるコマ数を超えても動画の質が上がるわけでもない。
圧縮技術にもとずくデジタルオーデイオの世界でもCDで用いられる汎用の圧縮方法(44.1kHz/16bit)の再生帯域には限界がある。これはハイレゾ音源(192kHz/24bit)で高品位化できるが、ある一定の再生帯域に達すれば情報量を多くしても人間にはわからなくなる。
また画像、音質、動画のコマ数が問題にならないほど高品位でなくとも情報交換のインフラが整っていない途上国では問題にしないだろう。現実にインターネットに接続しているのは世界人口の1/3である。携帯通信は音声通話からスパートフォン、タブレットで情報量が拡大していることと、途上国がいずれインフラを整えることができれば、それだけでも情報通信量は一気に増える。
2014年度の携帯電話契約数は75億を越え、世界人口を上回る台数の端末数となった。今後の伸び率は鈍化する見込みだが普及の進んでいない途上国を中心に端末数増加の傾向は続くとみられている。
Photo: news.com.au
一方、I2Tの世界は様相が全く異なる。例えば車を例にとると電子制御回路に入力データを送るセンサーは①エンジン・動力伝達系、②車両制御系、③ボディ制御系、④情報通信システム系に分かれそれぞれが増大する傾向にある。今後の自動運転車の実用化においては各部の状態の監視と生制御にセンサー出力情報は一気に増える。
工場でも各工程を細かく制御するためのI2T技術は生産効率と品質工場に重要な役割を果たすと考えられており。ドイツはいち早くIndustry 4.0と呼ばれる標準化政策を打ち出している。端末能力の普及とそれぞれの扱う情報量の増大の相乗効果で生じたネットワークトラフイックの情報爆発の今後の動向はH2Hに関してはある程度予測することができる。
Phto: CREINTECH SOLUTIONS
これに対してビッグデータの活用は新たな社会規範をつくりだすといわれる。経験(結果が強調された過去の事象)にこだわってきた人類はビッグデータの活用により、ミクロな動きを把握することで過去に頼らず、現在を解析し未来を予測することが可能になるからである。もちろんそのためには現在扱っている情報量とは比較にならない情報量を扱うことになり、それが新たな情報爆発につながる。
情報量の増大にしたがって使われるエネルギー(電力)も増大した。抜本的な対策は、スピントロニクスやLiHiなど光通信インフラで低電力化をはかる必要がある。経産省の調査では日本の情報通信で消費するエネルギーは国内発電量の20%。原発54基の総発電量に相当する。同じ消費電力で対応するにはおよそ3桁処理能力を上げる必要があるので、現実的には低電力化と動作速度の両方で対応するしかない。
Photo: daily captaindash.com
米国では電力の個人消費を規制するためにグリッド化に並行してスマート電力モニターを計画しているが、監視社会化するとして反対も多く、オフグリッド化に走る人々もいる。ビッグデータ社会ではマルチセンサで個人行動履歴が残り電力最適化の名目で監視社会につながる恐れがあることも注意しなくてはならない。
買い物した履歴、通話履歴、立ち寄った場所の履歴、食事の内容など全てのデータが揃えば社会をデータに凝縮することになり、ビジネスに使えば行動が読めるので先回りして製品を売り込むなど自由自在となる。例えばある車を運転中に目的地をナビから読み取ってFCVなら水素ガスなどの燃料やEVならチャージ場所を的確に指示して自分の経営するステーションに誘導することもできるようになる。
反面、誰でもこうした個人情報が漏えいした時のことを想像したしたくもないだろう。マルチセンサーにより集められたビッグデータは監視社会へと向かうことは避けられないように思える。