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ビルゲイツといえば財団をつくり、有り余る財産を使って社会還元を目指しているが、その中で彼が実質的に率いるテラパワー社は安全な次世代原発を開発して電力不足の地域を無くす壮大な計画に取り組んでいる。
興味本位に取り上げられることが多い次世代原発だが、歴史的には古く水爆の父として知られるエドワードテラーのアイデアを始め、日米の原子力工学の草分け的な研究者が育ててきた由緒ある原理によるものである。
現在の商用原発の主流は軽水炉と呼ばれるもので、低濃縮ウランを核燃料に用いることと冷却水である軽水すなわち通常の水を減速材に用い、高速中性子を核反応に適した低速中性子に転換する原理である。
商用原発に採用された理由は主に大出力が安価に得られることと、低濃縮ウランを使用するためプルトニウムを含む核廃棄物が兵器製造に適さないという核拡散安全保障のふたつである。
軽水炉は一定の成果を得たが安全面でチェルノブイリ、スリーマイル島、福島第一の事故によって核汚染によってそのリスクが現実化すると、先進国の反原発運動が高まり、ドイツ、イタリアなどでは完全な脱原発の方針を取り、アメリカ、日本、フランスでも原発政策の基本的な見直しを迫られれている。
高速炉
ビルゲイツの推進する次世代原発は軽水炉でなく高速炉と呼ばれる型式のものである。高速炉とはその名前の通り高速中性子(Fast Neutron)で核分裂反応を起こすものである。計画が中止された日本の高速増殖炉「もんじゅ」もそのひとつである。
高速炉では核燃料として(軽水炉では廃棄物に含まれる)ウラン238を用いる。例えていえば木を燃やして残る炭が立派な燃料になるように、捨てられる運命にある放射性廃棄物を高速中性子によって、再点火して燃料が燃え尽きるまで容器内に閉じ込めて、カイロのようにすこしづつ熱出力を取り出す、というものである。
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TWR
ビルゲイツ、というよりエドワードテラーが注目した高速炉はTWR(Traveling Wave Reactor)と呼ばれるもので、上の図のように最初に濃縮ウラン(235)を用いて、ウラン238の燃料に点火した後は数十年かかって燃焼部が移動していき、燃え尽きると運転が止まるため、「原子力バッテリー」のようなイメージとなる。図の例では60年かかって燃え尽きるように設計されているが、100年に延長することも可能だという。
核反応は劣化ウラン(ウラン238)に高速中性子を照射し、ウラン239をつくるとβ崩壊でネプツニウムを経てプルトニウム239となるもの。高速増殖炉特徴は核反応で核廃棄物から、燃料に使えるプルトニウム239を多くつくりだす点で、「核燃料サイクル」として原子力利用を支える理論的基盤であったが、もんじゅの計画中止で挫折している。
東芝の4S炉
ビルゲイツの次世代原子炉(TWR)の製作には東芝と韓国が協力関係にあるが、特にTWRに近い原子炉の開発を進めてきた東芝の技術がTWRに反映される可能性が高まっている。東芝の次世代炉「4S原子炉」とはどのようなものなのだろうか。
東芝の「4S炉」とは小型高速炉で4SはSuper-Safe, Small & Simpleの略で出力は最大でも50MWと商用軽水炉の半分以下であるが、燃料として濃縮ウラン金属をすこしずつ移動する中性子反射体でゆっくり核反応を起こしていき30年間にわたり燃料の交換なしに一定出力を得る。金属ナトリウムを冷却材に用いる点は「もんじゅ」と同じで、TWRの実現のネックは液体金属を冷却材に用いる点である。
「4S炉」の提案者は元電力中央研究所理事の服部禎男氏で、画期的な点は商用軽水炉の燃料が数年で燃え尽きて核廃棄物となるが、4S炉では30年にわたり使用し続けることができる点である。
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TWRと「4S炉」は核燃料が異なるがビルゲイツが注目したのは「4S炉」が、「もんじゅ」の開発によって東芝が得た液体ナトリウム冷却技術が、TWRのネックであった液体金属冷却の突破口と考えたためであろう。
SMR
一方米国ではロスアラモス国立研究所の研究者が小型原発の開発に取り組んでいる。こちらはウランに大量の水素を注入してウラン水素化物とし容器中に封入するものである。核反応が進み温度が上がりすぎると水素が放出され減速材の量が減るため、反応が弱まり温度が下がると水素が戻って再び核反応が増大する、という自動制御原理が特徴で、こちらはさらに小規模の数MWクラスのモジュール型原子炉(SMR: Small Module Reactor)を目指している。
TWRに話を戻すとネックは液体金属冷却技術につきる。「もんじゅ」で培われた技術がTWRと合体して、核燃料サイクルに変わる小型原子炉ができれば、先進国が蓄えた核廃棄物の再利用が可能になる日が近いかもしれない。しかしその場合には数え切れないほどの原発が地球上に存在することでもある。