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2020年に開かれるオリンピックに向けて東京の湾岸エリアの土地価格が値上がりしているが、オリンピック以後の投資価値には疑問の声があがっている。湾岸エリアの長期的開発計画が不透明だからだ。
一方で中国、韓国に目をやるとどちらにも大規模な湾岸開発プロジェクトが存在する。中国のダリアンと韓国のソンド、8シテイ国際都市である。これらについて概要を比較してみよう。
ソンド(松島)
ソンドはインチョン国際空港に近い環境にやさしい未来型都市で海岸に立地している。公園と緑が豊富なソンドは「コンパクト・スマートシテイ」として韓国が威信をかけて建設中であるが、コンセプト的にはUAEのマスダルに近く湾岸エリアとも重なる部分があるが、規模が違う。ドバイから4,000億円の投資を受けるなど、建設途上でも資金集めに余念がない。
インチョン国際空港とソンド地区はインチョン大橋で結ばれているため、ハブ空港と一体化して外国からのアクセスには大変便利である。環境にやさしいというコンセプトを象徴するのはマスダルと同じように廃棄物が地下トンネル(注1)で運ばれていくところだ。
(注1)ノボシビルスクを参考に日本で計画された研究学園都市(現在のつくば市)は、世界に先駆けて焼却ゴミをトンネルで集めて熱源にする計画であった。石油ショックと田中角栄の逮捕がなければ世界初のエコ都市になるはずであった。
28.38kmという長さで世界ランキングに数えられるインチョン大橋から市内に入れば、湾岸エリアの規模を拡大して未来型建築物が立ち並ぶが、高層ビルが密集した従来型の都市と一線を画する、公園と緑が豊富な想像すら困難な新都市が広がる。
8シテイ
8シテイはインチョン国際空港の近くのふたつの島に22兆円を投入して建設される「総合娯楽・観光都市」(上の写真)で、マカオの3倍の規模のカジノやテーマパークなどを含む。アジアのドバイやラスベガスを狙うという。
コンセプトは先進的で規模は世界有数であるこのプロジェクトにどれだけビジネスを呼び込めるかだが、国際都市とされるソンドプロジェクトのウエブがハングルのみなど、国際性には疑問がある。
韓国経済がこの新都市の計画を全うする体力があるかも現実的な問題だ。実際インチョン国際空港の離発着数は羽田空港の国際線の増便により激減した。ソンドがビジネス都市として機能することがインチョン地区全体の付加価値を高めるのであれば、ソンドや8シテイを予定どおり続けなければならないだろう。
経済技術開発区ダリアン
上海と並んで英語表記がしっくりくるダリアン(Dalian)は大連と表記すれば古くは旅順として知られる人口600万の湾岸工業都市である。一方で新しい響きを持つ”Dalian”は1984年から中国政府が人口20万の「大連経済技術開発区」として取り組んでいる湾岸の未来型都市の印象が強い。2,000年末までに外国企業384社が開業し、マブチモーターや東芝など日本企業も多い。
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中国国内では所得税が30%であるが「大連経済技術開発区」では15%という税制特区。また外国投資者が国外送金には送金の所得税が免除され、再投資の所得税の40%が還付など好条件が企業誘致を成功させた。
大連市は海上のハブとして貿易の中心とするほか、石油化学、設備製造、電子情報・ソフトウェア、造船の4分野の拠点とする大連ハイテクゾーン、大連ソフトウエアパークなど挑戦的な計画を立てている。大連ハイテクゾーン(下の写真)はよくある工業団地でこれだけでは新鮮味がないが、大連の港湾、「大連経済技術開発区」と連携させることによって潜在能力を発揮する。大連の都市計画は担当者の手腕が垣間見られる。無理のない計画である。上の写真は大連に建設が予定される「大連黄金海岸」と呼ばれる観光リゾート都市。
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大連ハイテクパーク(上)には中国科学院の研究所をはじめ大学、研究所もありハイテクを支える基礎研究にも力を入れており、単に工業団地のみでなく人材育成や基礎研究を一体として未来都市をつくるという手法は産業の持続性を考える、という意味で中国の方向性を示している。
ソンドもダリアンも湾岸を拠点としている点で東京の湾岸エリアと重なる部分が多いが、ハコモノ建設に終わらないためには居住者とって生活しやすいことが必要である。
これらの未来型都市のなかでどの地区が上海株暴落で始まった経済後退の時期を生き残るのか興味が尽きない。日本にはこれらに匹敵する計画はないから失うものもない。